ソニー

2004/01/23 GAGA試写室
母の娼館に戻ってきた青年売春夫ソニーは町を出られるのか。
ニコラス・ケイジの監督デビュー作。本人も出演。by K. Hattori


 1981年のニューオリンズ。数年前に突然町を去り、軍隊に入っていたソニーが町に帰ってくる。彼を出迎えたのは母親のジュエル。彼女はソニーが以前と同じように、自分の商売を手伝ってくれることを期待している。だがソニーは軍隊で知り合った友達のコネで、堅気の生活をしたいと母親に告げる。じつは母親は小さな娼館を経営している元娼婦で、ソニーも幼い頃から売春夫として店で働いていたのだ。堅気になって町を出たいと言う息子にジュエルは半狂乱になるが、ずっと昔から店で働くヘンリーはソニーを応援しようとする。だが友人の家に行ってみれば書店は倒産。ソニーはまた町に舞い戻り、以前と同じ売春の仕事を始めるのだが……。

 ニコラス・ケイジの初監督作。主人公ソニーを演じているのは『スパイダーマン』『容疑者』のジェームズ・フランコ。母ジョエルを『秘密と嘘』『リトル・ヴォイス』のブレンダ・ブレッシンが演じ、彼女の店で働くたったひとりの若い娼婦キャロルを『アメリカン・ビューティー』『アメリカン・パイ』のミーナ・スヴァーリ、ソニーの後見人的なヘンリーをハリー・ディーン・スタントン、そのカード仲間アルバートをシーモア・カッセルが演じている。監督のケイジも1シーンだけ、派手な黄色いスーツ姿で顔を出す。

 社会の最底辺で生まれ育ったダメ男が、流れ流れて社会の底まで転がり落ちたダメ女と手に手を取って、どん底の暮らしの中で弱々しくもがいて浮き沈みする。これは監督のニコラス・ケイジがアカデミー賞を受賞した『リービング・ラスベガス』にも通じるドラマだし、日本なら『鬼火』『皆月』『弱虫/チンピラ』などを撮った望月六郎に通じる物語だ。普通の暮らしを夢見つつ、そうでない生き方しかできないアウトローの世界。自分の生活に対する引け目や嫌悪感ゆえに普通の人々に極度の理想を追い求め、それが裏切られると深く傷つく意気地なしたちの世界。むき出しの暴力は、弱い自分を守ろうとする防衛反応なのだ。レストランで突然ナイフをちらつかせてすごむ、ヘンリーの哀しくて寂しい優しさ……。

 ソニーが自分の将来に感じる漠然とした不安感は、彼の肉体的な衰えや去勢恐怖という形で描いていく。女性客の前でペニスが勃起しにくくなったり、射精がうまくコントロールできなかったりする。客から料金を値切られることも多い。映画を観ていると売春の世界にも上下のランクがあり、ソニーはかなり下のランクであることがわかってくる。何をやっても上に這い上がれないソニー。

 『容疑者』で絶望に満ちた暗い目と表情を見せて観客をぎょっとさせたフランコは、この映画で自分自身すら嘲笑し投げ捨ててしまったような青白い薄笑いを浮かべている。ブレンダ・ブレッシンの怪物ママぶりは『リトル・ヴォイス』以上。どんより暗くて救いようのない映画だが、それでもこれは観る価値がある。

(原題:Sonny)

春公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ、オフィス・エイト 協力:エイベックス
2002年|1時間50分|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|DOLBY SR、DOLBY DIGITAL
関連ホームページ:
http://www.gaga.ne.jp/sonny/

DVD:ソニー
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