息子のまなざし

2004/01/08 ユーロスペース試写室
職業訓練所の教官と入所したばかりの少年の関係は?
監督は『ロゼッタ』のダルデンヌ兄弟。by K. Hattori


 『ロゼッタ』でカンヌ映画祭パルムドールを受賞した兄弟監督ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌの新作。前作と同じ抑制したタッチで、人間の心の奥底にある得体の知れない感情を描き出す作品になっている。ここで描かれているのは、憎しみなのか、悲しみなのか、許しなのか、癒しなのか……。主人公の日常を丁寧に描きながらまったく説明らしい説明をせず、最後の最後になって一気に手の内をさらして見せる衝撃。映画の最後の10分ほどに、この映画に描かれたドラマのすべてがぎゅっと凝縮されている。

 職業訓練所で木工技術の教官をしているオリヴィエのもとに、ある日フランシスという少年が送られてくる。定員一杯だと一度はこれを断ったオリヴィエだったが、しばらくして彼を自分の教室に受け入れることに決める。一度は断った生徒にも関わらず、オリヴィエはフランシスに対して並々ならぬ関心を抱く。彼にばれないように行動を監視したり、部屋に忍び込んでみたり……。なぜ彼はそれほどまでに、この少年に興味と執着を示すのか。物静かで穏やかな性格のオリヴィエが、妻と別れてしまったのはなぜか。なぜ彼女はフランシスを指さして絶叫し、卒倒するほどのショックを受けたのか。やがてフランシスの過去が明らかになったとき、オリヴィエの抱えた苦しみと葛藤もまた、観客の前に明らかにされることになる。

 この映画は最後の最後に準備されている「衝撃の事実」がストーリーのきもになっているので、それをあらかじめ知っていると、少なくともストーリーを追う面白さは半減してしまう。残念ながら僕は川本三郎さんの雑誌記事でこの「事実」を知っていたので、映画を観ていても「いつネタが明かされるのか」にばかり興味が向くという、いささか不純な鑑賞法になってしまったことは否めない。ただしこの「事実」を知っているからこそ、劇中でオリヴィエが見せる表情の意味を読み解いていくことができるのも確かだ。この映画を観る上で一番いいのは、一度何も知らずに最初から最後まで映画を観て、その後再び映画を最初から見直すことかもしれない。

 オリヴィエを演じたオリヴィエ・グルメはダルデンヌ兄弟作品の常連俳優だが、この映画ではほとんど必要最小限の台詞で、人間の苦悩を表現する素晴らしい芝居を見せている。彼はこの演技でカンヌ映画祭の主演男優賞を受賞した。もうひとりの主人公であるフランシスを演じるモルガン・マリンヌも、まるで無垢な少年というわけではなく、少し小ずるそうに見える風貌がよい。自分の過去の行いとそれを憎む社会の視線に対して、身を縮めるようにして暮らさねばならないフランシスもまた、苦しみながらこれからの長い一生を生きねばならないのだ。人間にとって罪とは何か、許しとは何か、そもそも人には許すことができるのかを描いた作品だと思う。重い課題を観客に投げかける作品だ。

(原題:LE FILS)

12月13日公開 ユーロスペース
配給:ビターズ・エンド
(2002年|1時間43分|ベルギー、フランス)
関連ホームページ:
http://www.bitters.co.jp/musuko/

DVD:息子のまなざし
関連DVD:ダルデンヌ(兄弟)監督
関連DVD:オリヴィエ・グルメ
関連DVD:モルガン・マリンヌ

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