ファインディング・ニモ

2003/12/07 丸の内ピカデリー2
ダイバーにさらわれた我が子を探すカクレクマノミの奮闘記。
ギャグとアクションたっぷりのピクサーアニメ。by K. Hattori


 日本アニメの熱烈なファン集団でもあるピクサー社の会議室では、休み時間になると日本から送られてきた最新アニメのビデオやDVDが上映されるという。会社が発足されて以来、この会議室の定番プログラムは宮崎駿の一連の作品だった。だが数年前、ピクサーのスタッフたちは、宮崎作品とはまったく異質のアニメ映画に注目した。それは『クレヨンしんちゃん』シリーズ。主人公はやんちゃな幼稚園児。個性的な悪役たちが次々に登場して、アクションとギャグが盛りだくさん。最後に家族愛を高らかに歌い上げるフィナーレ。名作のホマレ高い『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』に涙を流しながら、ピクサーの重役たちは「次はこれだ!」という大きな手がかりをつかんだという。こうして生まれた新企画こそ、『ファインディング・ニモ』に他ならない!

 上記のエピソードはまったく想像だけれど、要するに『ファインディング・ニモ』の面白さとは『クレヨンしんちゃん』の面白さと言っていいだろう。参考にしたかどうかはともかく、狙っているところは同じだ。小さな腕白坊主の視点と、子供を気づかう親の視点の両方から物語を組み立てる。子供は親をバカにしたり反抗したりするけれど、じつは親のことが世界で一番大好き。親は子供を時に赤ん坊扱いしながら、その成長を心待ちにしている。そこにあるのは、世界中のどこにでもある「普通の家族」の姿。ニモとマーリンの親子関係は、映画を観ているどの親子連れも共感できる「私たちの自画像」なのだ。

 子供と大人の組み合わせはピクサーの前作『モンスターズ・インク』でも描かれていたし、そこにあるのは典型的な疑似親子関係と言ってもいい。でも『モンスターズ・インク』の視点は、赤ん坊を見守る保護者の視点に偏っていた。『ファインディング・ニモ』はそれを「子供の視点」「親の視点」に分けたところが新しい。ただしこれによって物語がふたつに割れてしまい、親子のエピソードがしっくりとひとつにまとまっていないように思えるのも確かだ。『クレヨンしんちゃん』シリーズだと親子が再会した後に大きなクライマックスのアクションがあって、「家族はひとつ」というメッセージが観客に伝わるようになっている。『ニモ』にも再会後のアクションはあるが、親子が同じ困難に立ち向かうわけではないからなぁ……。

 日本中の映画館で『千と千尋の神隠し』をしのぐ人混みだそうで、映画興行の新記録を作るのではないかとも言われている。でもこの内容なら、『クレヨンしんちゃん』の方がアクションもギャグもずっとレベルは高いと思う。もちろん『ニモ』もいい。この映画はこれで100点満点。でも『しんちゃん』は120点の映画なんだよなぁ。(もちろん作品によって出来不出来のバラツキはあるけどさ。)世界レベルの仕事をしても、一部のマニアにしか認められない『クレヨンしんちゃん』は気の毒だなぁ。

(原題:Finding Nemo)

12月6日公開 丸の内ピカデリー2、シャンゼリゼ他・全国松竹東急系
配給:ブエナ・ビスタ
(1993年|1時間41分|アメリカ)
関連ホームページ:
http://www.disney.co.jp/movies/nemo/

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