あたしンち

2003/11/27 東映第1試写室
人気テレビアニメの劇場版。脚本の構成に少し難があるが、
家族みんなで楽しめる良質の映画になっている。by K. Hattori


 人気テレビアニメ「あたしンち」の劇場版。物語の主役は夫婦と子供ふたりのタチバナ家4人組だが、この映画では一家の中心人物である母と高校生の娘みかんがドラマを引っ張っていく。なんと母とみかんは、ふとしたきっかけで心と体が入れ替わってしまったのだ。普通ならこれに大騒ぎするはずなのだが、のんきなタチバナ家はあまり慌てたり騒いだりしない。「何はともあれ、家族みんなが食卓に揃っているわけだし」と平気の平左でご飯を食べたりしている始末。でも家の中ならいいとしても、学校が始まったらいったいどうするの? みかんの学校は間もなく修学旅行。それが終われば今度は、母に同窓会の通知が舞い込んできて……。

 ニコニコ笑えて、少しホロリとさせて、最後は温かい気持ちになれるファミリー映画。しかしこの内容で1時間半は、いささか長すぎるというのが正直な印象だ。映画は前半の修学旅行編と後半のクラス会編が完全にふたつに別れてしまって、うまく馴染んでいないと思う。エピソードはそれぞれ面白いのだけれど、ここでストーリーが完全にポッキリ折れているのは少々残念だ。前半から後半までつながるエピソードをもう少し作ってツナギにするとか、ギャグを詰め込むだけ詰め込んで有無を言わさず前半から後半に突き進むべきなのだろうが、この中間部分は作り手側で「ネタ切れ」「息切れ」を起こしているように見える。

 結局この「入れ替わり」というアイデアは、前半の修学旅行編だけで終わっているのだ。それを無理矢理1時間半の映画にするため、後半のクラス会編を強引に突っ込んでいるような印象だ。その証拠にクラス会編は、母とみかんが入れ替わらなくても成立してしまう話に思える。修学旅行編の最後に登場するハトと入れ替わった男など、エンディングに向けた複線となる人物やエピソードは、クラス会編から完全に排除されている。

 ある大事件をきっかけにして、母と娘が互いを理解し合うという話はありがちだが、そこに「娘になると身体が軽い」「お母さんの身体は重いしすぐにお腹が空く」という肉体性を加味しているところがユニーク。入れ替わった親子の寝室はどうするのか、どちらがどちらの歯ブラシを使うべきかなど、ものすごく卑近なところから「入れ替わり」という非日常のディテールを積み上げていくのは上手い。こんな悩みは入れ替わりジャンル(そんなものがあるのかどうかは疑問だが)の古典『転校生』でも描かれていなかった。

 みかんが事実を親友のしみちゃんに打ち明けるシーンにホロリ。クラス会編の終盤で、母と入れ替わっているみかんが母の同級生だった男と話をするシーンも泣かせどころだ。こうした場面は子供ではなく、むしろ親の世代がしんみりとするのではないだろうか。『クレヨンしんちゃん』ほど熱く語れる映画ではないが、これが家族みんなで楽しめるファミリー映画であることは間違いない。

12月6日公開予定 丸の内東映他・全国東映系
配給:東映
(2003年|1時間35分|日本)
ホームページ:
http://www.tv-asahi.co.jp/atashi/

DVD:あたしンち
主題歌CD:さらば(キンモクセイ)
主題歌CD:あたしンち(矢野顕子)
原作:あたしんち(けらえいこ)
関連ビデオ:あたしンち

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