ラスト サムライ

2003/11/13 丸の内ピカデリー2
明治初期の日本で士族の反乱に加わったアメリカ軍人の物語。
この話で描きたかったものがよくわからないなぁ。by K. Hattori


 1876年夏。ネイサン・オールグレン大尉は、日本政府から反乱軍鎮圧の軍隊を訓練してほしいとの依頼を受けて太平洋を渡った。だが急ごしらえの軍隊に基礎的な訓練を施す間もなく、反乱軍との小競り合いでネイサンは敵軍に捕らえられてしまう。反乱軍の首領・勝元はネイサンの果敢な戦いぶりに興味を持ち、彼を自らの領地に連れ帰って傷の手当てをし、話し相手として共に一冬を過ごす。翌春ネイサンは解放されるが、彼の目に映ったのは勝元たちサムライの潔癖な生き方に比べて、腐敗し堕落しきった近代日本の姿だった。政府が勝元を捕らえたと聞くと、ネイサンは勝元の部下たちと共に彼を救出して反乱軍の一員となる。1877年。いよいよ政府軍と反乱軍の戦いが始まった!

 トム・クルーズ主演のハリウッド製時代劇は、明治10年(1877年)に起きた西南戦争がモデル。ただし実際の西南戦争そのものを描いているわけではない。勝元は西郷隆盛ではないし、木村は岩倉具視や大久保利通ではない。映画が描こうとしているのは江戸時代の封建社会から明治の近代国家に向かう中で、祖先から受け継いできた精神性や文化、価値観を守り抜こうとした者たちの戦いだ。映画では新しい価値観と古い価値観の対立を鮮明にするため、反乱軍を銃やライフルなどの近代兵器を持たない甲冑武者たちとして描き、近代的な軍服と装備の政府軍と対決させている。だがこうした視覚的わかりやすさを追求した結果、映画のテーマそのものがわかりにくくなってしまったのは問題だ。

 言うまでもなく、日本には戦国時代から国産の鉄砲があった。この映画の製作者たちは黒澤明の戦国時代劇をかなり意識しているようだが、『七人の侍』『影武者』『乱』などにはすべて鉄砲が登場しているのを忘れたのだろうか。甲冑姿に鉄砲が似合わないわけではないのだ。反乱軍から銃を取り上げてしまった結果、装備の質でも兵員の数でも劣る反乱軍が、何を目的に戦っているのかわからなくなってしまった。負けるとわかっている戦争で、勝元が得ようとしたものは何なのだ?

 この映画は明治日本を舞台にした『ラスト・オブ・モヒカン』であり、『ダンス・ウィズ・ウルブス』であり、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』だ。明治の日本を愛してついに日本人に帰化した小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)も、ネイサンのモデルのひとりかもしれない。だが残念なことにこの映画では、すべての要素がゴチャゴチャとからまり合ったまま未消化に終わっている。インディアン掃討作戦で傷ついたネイサンの心は、勝元との出会いを通してどう変化していったのか。彼は日本で何を見つけ、なぜ命を懸けてまでそれを守ろうとしたのか。それらが明確に描かれていないため、ネイサンの視点を借りて勝元たちを観察している観客には何も伝わらない。渡辺謙や真田広之の熱演も、脚本の大きな空洞までは埋められないのだ。

(原題:The Last Samurai)

12月6日公開予定 丸の内ピカデリー1他・全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
(2003年|2時間34分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.lastsamurai.jp/

DVD:ラスト サムライ
サントラCD:ラスト サムライ |The Last Samurai
関連商品:ラスト サムライ(オフィシャルガイド)
関連洋書:The Last Samurai関連
関連DVD:エドワード・ズウィック監督
関連DVD:トム・クルーズ
関連DVD:渡辺謙
関連書籍:西郷隆盛関係
関連書籍:「葉隠」関連
関連書籍:「武士道」関連
関連書籍:「五輪書」関連

ホームページ

ホームページへ