ぼくの好きな先生

2003/10/23 銀座テアトルシネマ
全校生徒13人が同じ教室で学ぶフランスの小さな小学校。
生徒と教師の交流を記録したドキュメンタリー映画。by K. Hattori


 フランス中部のオーベルニュ地方に、全校1クラスという小さな小学校がある。そのクラスを受け持つのは、この小学校で勤続20年になるジョルジュ・ロペス先生。教員になって35年。その半分以上を、酪農地帯にあるこの小さな小さな小学校で過ごしてきたのだ。クラスにはまだおしゃぶりをくわえた3歳の幼児から、中学への入学を控えた11歳の児童まで十数人が一緒に机を並べている。ロペス先生はそのひとりひとりに目を配りながら、子供たちの成長を見守り続けている。季節は冬から春、そして夏。やがて上級生たちは卒業し、新しい子供たちが学校に入学してくる……。

 フランスでロングラン・ヒットした、ニコラ・フィリベール監督のドキュメンタリー映画。ナレーションによる説明などを排し、インタビューも極力入れ込まずに作られたこの映画は、説明がないぶん余計にいろいろなことを考えさせてくれる。僕がまず思ったのは、この小さなクラスを維持するのに、ものすごく大きな手間がかかるだろうということだった。同じ学年の子供でも、勉強の進みが早い子もいれば遅い子もいる。それなのにこの小学校では、まだ言葉もおぼつかない子供から思春期直前の大きな子供たちまで、一度にまとめて授業を進めていかなければならないのだ。教室のこちらで算数をしている子供がいれば、あちらでは書き取りをしている子供がいる。それらを全部まとめて、先生がひとりで見ているのだから大変だ。

 しかし考えてみれば日本だって江戸時代の寺子屋では、同じように年齢がばらばらの子供たちが同じ教室で学んでいたのだ。子供を1年ごとにまとめてクラスを構成するのは、明治以降に生まれた新しい制度だと思う。要するに近代合理主義なのだ。教育の効率化と合理化の結果が、1クラスが全員同じ年齢という現在の学校制度なのだ。でもそこで教育から抜け落ちてしまうものも多いのかもしれない。この映画を観ていると、学校の中にある非効率的な部分から、子供たちが学んでいることはすごく多いように見える。

 日本は少子化で子供が少なくなるのだから、これからは明治以来の効率的な教室運営を改めて、江戸時代の寺子屋方式に戻すことを検討したっていいはずなのだ。1クラス30人と言わず10人か15人ぐらいに縮小して、小学校1年生から3年生ぐらいまでは同じクラスで学ぶ形にしたっていいと思う。子供たちが同じ年齢の子供たちとのつながりで学ぶことも多いと思うけれど、年齢の違う子供たちとの縦のつながりから学ぶことも多いと思うぞ。

 もちろんこの映画は「全学年1クラスが望ましい」なんてことを主張しているわけではない。でも「こういう学校もいいなぁ」と思わせるだけの力が、この映画にはあると思う。観ていて何よりも嬉しくなるのは、登場する子供たちの目がみんな生き生きしていることだ。生徒ひとりひとりの個性が、映画の中で輝いている。

(原題:Etre et avoir)

9月20日公開 銀座テアトルシネマ
配給:ミラクルヴォイス、東京テアトル
(2002年|1時間44分|フランス)
ホームページ:
http://www.bokusuki.com/

DVD:ぼくの好きな先生
関連DVD:ニコラ・フィリベール監督

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