レニ

2003/10/16 ユーロスペース1
伝説の映画監督レニ・リーフェンシュタールを取材した映画。
芸術と政治に翻弄された悲運の監督レニの生涯。by K. Hattori


 戦前のドイツでナチスの党大会映画『意志の勝利』を監督して認められ、ベルリン五輪の記録映画『オリンピア』2部作『民族の祭典』『美の祭典』で世界的な名声を得たレニ・リーフェンシュタール。彼女は戦後になって、ナチスへの協力者としてドイツ内外から批判されることになった。映像作家として天才的な才能を持ちながらも、戦後の彼女に戦前と同じ活躍の場はとうとう与えられなかった。彼女は今年の9月8日、バイエルン州の自宅で101歳で亡くなったが、「ナチス協力者」という汚名は結局彼女の死までついて回ることになった。戦後58年たち、彼女自身は死によってようやくその汚名から解放されたわけだが、「レニ・リーフェンシュタール」の名前は今後もナチスやハーケンクロイツと共に語られ続けることだろう。

 この映画は伝説の映画監督レニ・リーフェンシュタールを、彼女が90歳だった時に取材したドキュメンタリー映画だ。90歳のレニはまだまだ元気いっぱいで、新しい自分の映画を撮影したり、編集作業を進めたりしている。記憶もじつに鮮明で、子供時代の思い出や『意志の勝利』『オリンピア』撮影中の裏話、ヒトラーやゲッベルスの人物像、戦後にアフリカを訪問してヌバ族と出会ったことなどを語っている。リーフェンシュタールは自伝「回想」を書いているが、活字の弱みは「映画作家の作品」をそのまま引用することができないことだ。その点この映画『レニ』は、彼女が出演した作品や監督作などを、適時引用することができる強みがある。『意志の勝利』がいかに優れた映画であるか、『民族の祭典』『美の祭典』がどれほど美しい映画であるかは、実際に動く映像を見て初めて理解できる。「回想」を100回読んでも、この引用には到底かなわない。

 レニ・リーフェンシュタールは戦後にナチスの協力者として何度も告発されながら、裁判ではことごとく無罪を勝ち取っている。確かにレニは、ヒトラーやゲッベルスのような戦争犯罪人ではないだろう。だがレニがヒトラーに心酔していたことは間違いないし、ヒトラーとの親しい関係を利用して『意志の勝利』や『オリンピア』2部作を作ったのも確かな話だ。それは確かに「犯罪」ではない。しかし「道義上の責任」はどうなのかと、この映画の監督はレニを問いつめるのだ。

 芸術は社会的な責任を負うべきか否か……。これはひとりレニ・リーフェンシュタール個人の問題ではなく、「表現の自由」や「芸術の価値」を巡って今日も議論されるテーマだと思う。芸術は社会の発展や正義のために貢献すべきだとする意見は、一見すると正しそうに思える。しかしそれはナチスが現代美術を「退廃美術」と非難した思想と、何ら変わりがないのではないだろうか。レニ・リーフェンシュタールについて語ることの難しさは、そこに「芸術とは何か?」という問いかけが含まれているからだと思う。

(原題:Die Macht der Bilder: Leni Riefenstahl)

10月15・16・17日公開 ユーロスペース
配給:パンドラ
(1993年|3時間2分|イギリス、フランス、ドイツ、ベルギー)
ホームページ:
http://www.eurospace.co.jp/detail.cgi?idreq=dtl1065176655

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