イン・ディス・ワールド

2003/09/09 東宝第1試写室
アフガン難民の少年がパキスタンからロンドンを目指す。
ベルリン映画祭で金熊賞他3冠を受賞した作品。by K. Hattori

 作品ごとに大きく作風を変えるイギリスの映画監督マイケル・ウィンターボトムの新作は、アフガニスタン難民の少年がパキスタンの難民キャンプからロンドンを目指すロードムービー。撮影には小型のデジタルカメラが使われ、大まかなストーリーをもとにして半ば即興で映画作りが行われたという。主人公を演じる青年と少年は、パキスタンの難民キャンプでオーディションした演技経験のないアフガン難民。その境遇も役名も本物そのままであり、この映画はものすごくドキュメンタリーに近いフィクションになっている。

 パキスタンの難民キャンプで育ったジャマールという少年が、親戚の青年エナヤットと一緒にロンドンまで旅をすることになる。難民キャンプにいても、若者たちには未来がない。親戚の男たちはエナヤットとジャマールに未来を託し、旅の仲介業者に高額の手数料を払ったのだ。ふたりはペシャワールからアフガニスタンとの国境に沿って南下し、クエッタから国境の町タフタンを経由してイランに入り、さらにテヘランから山越えをしてトルコへ。途中で検問に引っかかったり、イランからパキスタンに送り返されたりという問題はあったが、イスタンブールまで来てしまえばもうヨーロッパは目と鼻の先。ふたりは他の不法移民と一緒にコンテナに積み込まれ、大型貨物船でイタリア北部の港町トリポリに向けて出発したのだが……。

 難民キャンプでの暮らしは、貧しいとはいえ今すぐ命の危険にさらされるということはない。だがそこでは今日1日の糧を得て明日に命をつなぐ以外、未来に対して何の夢も希望も抱くことが許されないのだ。低賃金での過酷な労働。ただ働いて食べて寝て、目が覚めるとまた新しい1日が始まるだけの暮らし。彼らにとって海外での暮らしは、明るい未来を手に入れるためのパスポートとなる。この映画の根っこにあるのは、「未来への希望」を得ようとする人間たちの戦いだ。これはウィンターボトム監督がこれまで作ってきた、他の映画のテーマとも重なるものだと思う。どんなに辛くて危険な旅でも、そこに明日につながる希望があるなら、ジャマールやエナヤットはどんな苦労もいとわない。

 イギリスでも不法移民は社会問題になっているそうで、一般社会からは厄介者扱いされているらしい。だがこの映画を観ると、不法入国しようとする側にもそれなりの理由はあるんだなぁと思わされる。この映画が描こうとしているのは、不法入国者も我々と同じ人間なんだということ。随所にサッカーの場面を入れているのは、サッカー好きのイギリス人がアフガン難民に親しみを持てるようにする演出だろう。

 日本も含め移民を受け入れる国では、政権に迫害を受けた「政治難民」と、貧困から逃れるため祖国を出る「経済難民」を区別するようだが、パキスタンで暮らすアフガン難民はこの両方の要素を兼ね備えていたりする。難民問題は難しいのだ。

(原題:IN THIS WORLD)

11月公開予定 シャンテ・シネ
配給:アミューズピクチャーズ
宣伝協力:ムヴィオラ
(2002年|1時間29分|イギリス)
ホームページ:
http://www.inthisworld.jp/

DVD:イン・ディス・ワールド
関連DVD:マイケル・ウィンターボトム監督

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