歌追い人

2003/08/12 松竹試写室
20世紀初頭にアパラチア山地で山の民の音楽を発見した女性の物語。
物語は弱いが音楽いい。これぞアメリカ音楽のルーツだ。by K. Hattori

 20世紀初頭のニューヨーク。大学で英国の古い民謡(バラッド)を研究しているリリー・ペンレリックは、大学内での露骨な男尊女卑の風潮と人間関係にうんざりして、アパラチア山脈で暮らす貧しい人々向けの学校を開いている妹のもとに身を寄せる。ところがそこで偶然耳にした古い歌を聴いて、リリーは身震いするような興奮を覚えた。なんとそれは200年前の開拓者たちが英国から伝えた、古い英国民謡のバリエーションだったのだ。ちょっと調べてみると、その歌詞や節回しは英国伝来のオリジナル形をかなり正確に保っているようだし、英国では既に誰も知らない失われた歌の多くがアパラチアでは今も生活の歌として愛唱され続けている。リリーは学者としての野心から、歌の採譜と録音を始めるのだが……。

 アメリカ音楽のルーツにはブルースとカントリー&ウェスタンがある。ブルースは黒人音楽で、カントリー&ウェスタンは白人の音楽。そのカントリーの源流として知られるのが、この映画に登場する山の民の音楽だ。現在はこれを「マウンテン・ミュージック(マウンテン音楽)」と称するようだが、1920年代にレコード産業で名づけられた「ヒルビリーズ」の方が通りはいいかもしれない。

 映画としては少々まとまりに欠けるところがある。いろいろな要素を映画に入れようと欲張って余計な枝葉が茂ってしまい、物語の根幹が見えにくくなっているのだ。例えば主人公の妹と恋人の話など、本来は不要なのではないだろうか。黒人のブルースマンが突然現れるのも不思議といえば不思議。確かにこうしたエピソードがその当時の世相を表している面もあるのだが、こうしてちょっとづつ欲張った挙句、テーマと密接に結びついたエピソードが弱くなっている気もするのだ。例えば山の民出身ながら都会の学校で学び、今は山の民から土地を買いあさる男のエピソードはもっと強調されてもいいはずだ。この時代にはマスを対象にした音楽産業が「楽譜の出版」という形でしか存在しなかったことも、映画の導入部でもう少し丁寧に説明してくれると後の話がわかりやすくなる。

 他にもヒロインの心境変化のドラマが見えにくいなど、映画作品としては致命的とも思える欠点が多々ある作品なのだが、この映画のすべての欠点を埋め合わせ、バラバラになりそうな映画全体を結びつける吸引力や接着剤の役目を果たしているのが、映画の最初から最後までを埋め尽くす数多くの音楽だ。この映画の見どころは、実際に20世紀初頭に採譜された山の民の音楽を、現代の演奏家によって生々しく蘇らせているところだと思う。歌っているのはベテランのカントリー歌手たちだが、主人公の助手になる山の少女ディレイディスを演じたエミィ・ロッサムはオペラ歌手。これが目茶苦茶に上手い! アメリカではサントラ盤がベストセラーになって、続編まで出てしまいました。

(原題:Songcatcher)

10月下旬公開予定 渋谷シネマ・ソサエティ
配給:松竹
(2000年|1時間49分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.utaoi.jp/

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DVD:歌追い人
輸入ビデオ:Songcatcher
サントラCD:Songcatcher
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