リード・マイ・リップス

2003/08/08 メディアボックス試写室
難聴の女性と仮出所中の男が出会ってある犯罪を思いつくが……。
ストーリーの面白さに小技もきいた傑作サスペンス。by K. Hattori

 不動産開発業者で社長秘書の仕事をしているカルラは35歳の独身女性。難聴という障害を持っていることが、彼女を社内で地味な存在にしている。恋人もいないし化粧気もない。会社の中ではでしゃばらず目立たずにいることが、彼女の処世術だったのだ。仕事と人間関係のストレスから体調を崩したカルラは、社長から助手を雇う許可を得る。そこに現れたのがポールという若い男。少し前に刑務所から出てきたばかりだという男で、秘書の助手をするだけのスキルもまったく持ち合わせていない。だが彼女は自分の責任で彼を雇い入れる。彼の発散する危険な男のニオイが、カルラを少しずつ変化させていくのだが……。

 『天使が隣で眠る夜』のジャック・オディアール監督が手がけた、サスペンス・ラブストーリー。主演はエマニュエル・ドゥヴォスとヴァンサン・カッセル。真面目な社長秘書が刑務所から出たばかりの男の野性的な魅力に惹きつけられて、やがて危険な現金強奪の片棒を担ぐことになるという話なのだが、この主人公ふたりのキャラクター、特にドゥヴォス演じるカルラのキャラクターが面白くて、映画を奥行きのあるものにしている。

 ヒロインのカルラは地味で目立たない存在ではあるのだが、それは彼女の本性ではなく仮の姿だ。彼女は自分をバカにする周囲の男たちに対する怒りがあり、自分もそんな男たちと同じかそれ以上に仕事ができるはずだという自信がある。逆にポールは盗みや強盗の罪で2年も刑務所に入っていたチンピラだが、根っからの悪党というわけではなくて、今回の出所をきっかけにまともな堅気の生活を送りたいと願っている。悪い仲間と付き合うこともせず、保護司のもとにも決められた日にきちんと真面目に顔を出しているのだ。

 カルラがポールを使って会社の同僚を罠にかけたり、仕事を取るために荒っぽい仕業におよんだりする様子は痛快。カルラの手伝いをさせられるポールの方が、むしろ及び腰でびくついているというのが面白い。またポールの側もカルラの読唇術を使って、ヤクザから大金をせしめられないかと考えたりする。映画の後半はこの大金強奪の正否が、大きなサスペンスを生み出すのだ。

 この映画はセザール賞の主演女優賞・脚本賞・録音賞を受賞しているのだが、補聴器をつけたりはずしたりするカルラの主観的な音の世界を見事に表現した音響効果なしに、この映画のこの面白さはあり得なかったように思う。オードリー・ヘプバーンが盲目の女性を演じた『暗くなるまで待って』というサスペンス映画があったけれど、この映画終盤のサスペンスはその難聴版みたいなものだ。かすかな音の記憶を頼りに隠された金の場所を探したり、遠く離れた場所から相手の唇を読んで意思を伝え合ったりするアイデアは、おそらくそう何度も使えるものじゃない。保護司の妻が失踪するエピソードも、全体の中で面白いアクセントになっている。

(原題:Sur mes levres)

秋公開予定 シネマライズ
配給:シネマパリジャン
(2001年|1時間59分|フランス)
ホームページ:
http://www.cinemaparisien.com/

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