永遠のマリア・カラス

2003/06/12 GAGA試写室
ファニー・アルダンが晩年のマリア・カラスを演じる音楽映画。
内容はかなり史実をはなれているらしい。by K. Hattori

 20世紀最高のプリマドンナとして伝説化しているマリア・カラスの晩年を、カラス本人と親交のあったフランコ・ゼフィレッリ監督が映画化した音楽映画。ただしこの映画は、実話をもとにした伝記映画ではない。本人のキャラクターやさまざまなエピソードをもとに、ゼフィレッリ監督が「あの時こんなことがあったなら」と夢想したフィクションなのだ。劇中でカラスを演じているのは、『8人の女たち』にも出演しているファニー・アルダン。彼女にしては珍しい英語作品への主演だが、力の入ったすごい芝居を見せてくれる。

 ロックバンドのプロモーターとして世界中を飛び回っているラリー・ケリーが、パリの自宅で引きこもり生活をしているマリア・カラスを訪問する。ラリーはかつてカラスと一緒に仕事をした旧知の仲。ロックの世界で暮らしている今も、世紀のディーヴァ(歌姫)であるカラスをもう一度表舞台に立たせたいと願っていた。ラリーが持ち込んだのは、カラス主演の映画版『カルメン』。カラスの全盛期に録音した声と、円熟の極みにある演技を映画の中で結びつけ、これまでにない映画版オペラを作ろうというのだ。歌手としての自信をすっかり失っていたカラスは、迷った末にこの仕事を引き受ける。撮影は順調に進み、カラスにとって一世一代の映画が完成したのだが……。

 別々に収録された映像と音声を映画の中で結びつけるテクニックは、『雨に唄えば』にも紹介されているミュージカル映画の伝統芸。しかし映画の中でひとりの人間の過去と現在を結びつけるというアイデアはユニークであると同時に、ひどく残酷なことのようにも思う。これは歌手に対して「あなたの現在の声はもう使い物にならない」と宣告しているに等しい。マリア・カラスをひとりの「歌手」として考えた場合、なぜこんな設定が成立しうるのかわからなくなる。

 カラスが「歌手」という立場を離れても、「演技者」として卓越した存在感と技術を持っていたことがわからないと、この設定の意味が見えてこないのではないだろうか。この映画に描かれた時期の数年前、カラスはパゾリーニ監督の『王女メディア』の主演女優を務めているのだ。劇中では若者向けのワークショップの中で、『トスカ』のクライマックスを演じてみせるカラスの姿が再現されているが、こうした「演技者としてのカラス」をもう少し早めに見せてくれると、「最高の歌と最高の演技を結び付けたい!」というラリーの気持ちを観客がすんなり理解できると思うのだが……。

 映画の中にマリア・カラスを蘇らせたいというゼフィレッリ監督の意図はわかるのだが、史実を離れて「カラス」というキャラクターだけを蘇らせることに、はたしてどれほどの意味があるのだろうか。ゼフィレッリは劇中劇のカラス版『カルメン』を演出したかっただけにも思える。この劇中劇は素晴らしいでき。DVDには完全版を収録してほしい。

(原題:Callas Forever)

7月公開予定 シャンテ・シネ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ風グループ
協力:東芝デジタルフロンティア
(2002年|1時間48分|イタリア、フランス、イギリス、ルーマニア、スペイン)
ホームページ:
http://www.gaga.ne.jp/

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