バヤヤ

2003/06/03 映画美学校第2試写室
貧しい農夫が魔法の力で青年騎士に変身してお姫様を救う。
チェコの民話を原作にした人形アニメーション。by K. Hattori

 チェコのアニメ作家イジー・トルンカが、1950年に製作した長編人形アニメ。原作はチェコの民話「バヤヤ王子」。トルンカは主人公を貧しい青年に変更したということらしいのだけれど、僕は原作を知らないので本当のところはわからない。主人公バヤヤが自分の本来の身分を隠してお姫様にプロポーズし、彼女の心を試すというのが話のポイント。主人公が身分を偽るという話は古今東西いろいろな民話や伝説や小説に登場するものだから、おそらく「バヤヤ王子」もそうした物語のひとつなのでしょう。

 主人公バヤヤは、父とふたりで赤貧洗うがごとき生活をしている若い農夫だ。そんな彼が亡き母の化身である白馬の助けを借りて、凛々しい青年騎士の姿にに変身。凶暴な竜と戦ってこれを退治し、王様の末娘の心を奪う。やがて王の娘にはあちこちから求婚者が現れるが、そこに騎士バヤヤの姿はない。現れたのは貧しい農夫の姿になったバヤヤのみ。彼は姫にプロポーズするが、姫は貧しい身なりのバヤヤが自分を助けた騎士だと気づくことができず拒絶してしまう。やがて馬上槍試合の場に騎士の姿で現れたバヤヤは、あっという間に敵を蹴散らして優勝。それを見た姫はバヤヤに結婚を申し込むが、今度はバヤヤが姫を拒絶して立ち去ってしまう。やがて姫は騎士と農夫が同一人物だったことに気づき、自分の身分も何もかも捨てて、バヤヤと一緒に貧しい暮らしをすることを選ぶ。めでたしめでたし……。

 物語は途中まで「シンデレラ」の男性版なのだが、主人公が王族や貴族の世界に迎えられてハッピーエンドにならないところがユニーク。身分の低い青年が騎士に化けてお姫様と結ばれる映画『ロック・ユー』のような高揚感はないけれど、「愛があればすべてを受け入れられることができる」というテーマは明確になっていると思う。

 バヤヤには青年らしい野心がないわけではない。しかしそれよりも、彼は恋人の愛を試すほうを選ぶのだ。お姫様はバヤヤの何を愛しているのか? 彼の強さか? 彼の若武者ぶりか? 彼の美しさか? 実際の愛情や恋愛というのはさまざまな要素の複合だと思うから、こうした問いかけにどれほどの意味があるのかはわからない。「愛する人には本当の自分を見てほしい」と青年が願ったとしても、そもそも「本当の自分」とは何なのか? 王様がバヤヤを貧しい身分から貴族に引き上げた場合、それはバヤヤが「本当の自分」を捨てたことになるのか? この問題を突き詰めていくと、なんだかよくわからないものになってしまう。
 
 映画はそのあたりをさらりと流して、お姫様が貧しいあばら家に嫁入りしてハッピーエンドとしている。でもこの結婚は長続きしないと思うんだよなぁ。バヤヤの境遇を知った上で、王様がバヤヤを貴族に取り立てる『ロック・ユー』方式の方が自然だと思う。お姫様が農作業なんてできるはずないじゃん!

(原題:Bajaja)

2003年夏公開予定 ユーロスペース
配給:チェスキー・ケー、レンコーポレーション
(1950年|1時間18分|チェコ)
ホームページ:
http://www.unifrance.org/

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DVD:バヤヤ
関連リンク:イジー・トルンカ監督
関連書籍:トルンカ

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