HERO

2003/05/29 ワーナー試写室
秦王(始皇帝)を暗殺するため無名の男が近づくが……。
チャン・イーモウ監督が作った武侠片。by K. Hattori

 古代中国。強大な武力で中国統一を目前にした秦王の前に、無名の地方役人が謀反人成敗の報告に現れる。彼は槍の名手である長空を手始めに、剣の名手・残剣、その恋人・飛雪ら3人をことごとく討ち果たしたのだという。秦王は日頃から暗殺を警戒して自分の周囲300歩以内に人を寄せ付けないのだが、この報告に喜んで無名の役人を自分の前10歩まで近づける。だがこの無名の役人こそ、秦王暗殺を狙う新たな刺客に他ならなかった……。

 『紅いコーリャン』や『初恋のきた道』のチャン・イーモウ監督が、ジェット・リー主演で製作した武侠アクション映画。映画の企画自体は『グリーン・デスティニー』より前だったと言うが、『グリーン・デスティニー』の成功あればこそ実現できた企画という気もする。キャストとスタッフは超豪華。リー以外には、ドニー・イェン、トニー・レオン、マギー・チャン、チャン・ツィイーらが出演。撮影はクリストファー・ドイル。衣装デザインはワダエミ。音楽はタン・ドゥンでバイオリン演奏はイツァーク・パールマン、太鼓演奏は鼓童という顔ぶれ。

 後に中国全土を統一して始皇帝となる秦王を暗殺しようとする物語としては、映画『始皇帝暗殺』にも登場する刺客・荊軻が有名。今回の映画では荊軻の物語なども参考に、まったくオリジナルのドラマを作っている。参考にしたのは「史記」などの歴史書ではなく、李白の詩「侠客行」だという。アクションシーンは大きな見せ場になっているが、この映画が目指しているのはアクションが生み出す興奮や熱狂ではなく、アクションを華麗な舞踏として見せることにあるようだ。武侠映画の約束どおり、剣の名手たちは重力を無視して空中高く舞い上がり、長い着物をひらひらと振り回しながら剣や槍を交える。

 物語の焦点は残剣と飛雪がいかに倒されたかというミステリーにあり、最初は無名の男の報告があり、次に秦王の推理が示され、最後に無名による真相告白がなされるという、3通りの物語が連続して語られる。同じドラマを視点を変えて語る『羅生門』パターンだ。映画ではそれを衣装まで変化させて語るのだが、そのどれもが非常に美しい。特に最初の物語でマギー・チャンとチャン・ツィイーが戦うシーンは印象的だ。黄色に染まる銀杏林が、あっという間に赤く染まるシーンには背筋がぞくぞくした。

 チャン・イーモウの演出は非常に演劇的で、リアリティよりもビジュアル重視。コスチュームは役割や場面によって、黒、赤、青、白などの色で統一され、秦軍の兵士が放った矢は黒雲のように空を覆いつくす。また秦の兵士や役人たちはギリシャ古典劇のコロスのように使い、個性のない群集に仕立ててその前にいる登場人物を浮き上がらせるような場面もある。クライマックスで役人たちが秦王に詰め寄るくだりなどは、その典型だ。アクション映画というより、美術品のような映画だと思う。

(原題:英雄)

2003年8月下旬公開予定 丸の内ルーブル他・全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
宣伝:キャシディ、ムービーテレビジョン
(2002年|1時間39分|中国)
ホームページ:
http://www.hero-movie.jp/

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