あじまぁのウタ
上原知子─天上の歌声

2003/05/14 アミューズピクチャーズ試写室
りんけんバンドのボーカリスト上原知子を取材したドキュメンタリー映画。
演奏シーンがすごくいい。CDが買いたくなってしまう。by K. Hattori

 完成済みの映画『月の砂漠』の公開が待たれる青山真治監督最新作は、りんけんバンドのボーカル、上原知子を取材したドキュメンタリー映画。映画の大半はライブハウスでの生演奏シーン。レコーディングスタジオでの演奏やインタビューが、その合間に挿入されるという構成になっている。一緒にインタビューを受けているのは、りんけんバンドのリーダーであり、上原知子の私生活でのパートナーであり、この映画全体の音楽も担当している照屋林賢。ふたりの口から、それぞれの音楽的基盤や出会いのきっかけが語られる。

 本作の魅力は、りんけんバンドの演奏シーンだけだと思う。とはいえ時間と手間をかけた他の取材シーンが、まったく無意味だというわけではない。インタビューやレコーディング風景という背景があればこそ、上原知子や照屋林賢の音楽に対する真剣さが伝わってくるわけだし、彼らの音楽が単なる「沖縄民謡風のワールドミュージック」ではなく、本物の沖縄民謡にしっかりと根を下ろした新しい音楽だということが理解できるのだ。こういうことは、りんけんバンドのファンならとうの昔に知っていることだろう。でもこのバンドに馴染みがなかった僕にとっては、こうした情報がとてもありがたいし、音楽を理解する役に立った。

 映画の中でもっとも感動的なのは、上原知子が自分自身の音楽のルーツとして、祖母が歌った「だんじゅかりゆし」の思い出を語る場面だった。数十年前にいとこが集団就職で本土に向かうとき、見送りのお婆がこの歌を歌ったのだと言う。もともとは航海の安全を祈り、無事に戻ってくることを祈る船出の歌。「あの時のお婆の歌が、今までに私が聴いた歌の中で一番だった」と言う上原知子。沖縄では古くからの民謡が、生活の歌として生きている。(今はどうなんだろう?)上原知子やりんけんバンドの活動は、沖縄に根付いている生活の歌を取り戻そうとする活動なのではないだろうか。

 りんけんバンドの曲は、どれも沖縄の言葉(うちなあぐち)で書かれている。そのため曲を聴いていても、歌詞の内容がほとんどわからない。映画だからといって、画面の隅っこに歌詞の対訳が付くわけでもない。この映画が演奏シーンに求めているのは、映画を観る人たちがその場に居合わせているような臨場感なのだ。歌詞がわからないならわからないなりに、りんけんバンドのパフォーマンスを受け入れればいい。
 
 映画にはステージでは見られない上原知子の文字通りの素顔(メイクなしのスッピン)が登場するが、その様子だけを見ればまるでどこかのオバサンといった雰囲気。それがひとたびメイクをして舞台に立つと、輝かしいオーラをまとった歌姫になってしまうのだからびっくり。流れ出す声は、甘露のように聴く者の心に染み渡る。タイトルの『天上の歌声』というのも、あながち大げさな表現とは思えない。

2003年7月12日公開予定 テアトルタイムズスクエア
配給:レントラックジャパン、アジマァ、ランブルフィッシュ
宣伝:パンドラ
(2002年|1時間28分|日本)
ホームページ:
http://www.pan-dora.co.jp/ajima/

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