梶原三兄弟激動昭和史
すてごろ

2003/05/06 東映第2試写室
「巨人の星」の原作者・梶原一騎の生涯を弟・真樹日佐夫の視点で描く。
原作者の真樹日佐夫が大山倍達の役で出演している。by K. Hattori

 漫画「巨人の星」や「あしたのジョー」の原作者として知られる梶原一騎の生涯を、実弟である真樹日佐夫の視点から描いたドラマ。原作は真樹日佐夫の自伝小説「兄貴」と「すてごろ懺悔」。映画の中では兄・梶原一騎を奥田瑛二が演じ、主人公の弟・真樹日佐夫を哀川翔が演じている。原作者の真樹日佐夫は、極真空手の総帥・大山倍達を演じている。じつは真樹日佐夫は元極真会館の師範代を勤めていた実力者。その後独立して(このいきさつについては映画の中でも描かれている)、現在は自身で真樹道場を主催している本物の空手家なのだ。彼はこの映画の監修と脚本も担当している。

 この映画は確かに「梶原一騎の生涯」を描いているのだが、「梶原一騎の伝記映画」ではない。兄・梶原一騎の生涯とオーバーラップした、弟・真樹日佐夫の生き方が映画の中心になっている。映画のサブタイトルに『梶原三兄弟激動昭和史』とあるが、映画の中心は次男の日佐夫と長男・梶原一騎の関係の中にあり、三男の高森日佐志はだいぶ影が薄い。映画からは他にも多くの要素が割愛されている。例えば登場人物たちの結婚生活について、この映画はまるで何も描いていない。真樹日佐夫本人の作家としての仕事についても、ほとんど何も触れていない。そのため真樹日佐夫が毎日何をして収入を得ているのか、特に映画の前半ではまったく不明だったりもする。

 しかしこれはこれでいいのだろう。映画は真樹日佐夫と梶原一騎という兄弟の関係性にフォーカスを当てて、他の要素をすべてぼかしているのだ。そして映画の肝であるこの兄弟の関係性については、奥田瑛二や哀川翔の好演もあって映画の中でもひときわくっきりと浮かび上がっている。暴力事件を起こして逮捕された梶原が、弟の日佐夫と牛乳で乾杯をするシーンからは、梶原一騎という強面の顔の裏にあるさびしがりやの性格が透けて見えるようだった。暴力と純愛が梶原作品の2大テーマなのだ。

 劇中では「巨人の星」の誕生シーンが描かれるが、その他の作品についてはあまり詳しく語られていない。しかし梶原が白いスーツ姿でガックリとうなだれるシーンは明らかに「あしたのジョー」の引用であり、大山倍達と極真空手の登場シーンは「空手バカ一代」を嫌でも思い出させる。(案外どこかに「愛と誠」などの要素も紛れ込んでいたのかもしれないが、「愛と誠」の読者でなかった僕にはちょっとピンと来なかった。)梶原作品のファンなら、劇中にちりばめられた作品引用がもっと明確にわかるに違いない。

 梶原一騎17回忌追悼記念作品。僕自身はリアルタイムで「愛と誠」の大ブームを体験しているが、梶原一騎というと「四角いジャングル」や「カラテ地獄変」などの格闘技漫画の原作者という印象が強い。「愛と誠」も含めて、血なまぐさくて陰惨な感じがしてあまり好きではなかった。今あらためて梶原作品を見ると、別の印象があるかも。

2003年6月公開予定 新宿東映パラス3
配給:ジーピー・ミュージアム、リベロ 宣伝:JMP
(2003年|1時間44分|日本)
ホームページ:
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原作:兄貴―梶原一騎の夢の残骸
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