クラバート

2003/04/24 シネカノン試写室
プロイスラーの有名なファンタジー小説をアニメーション映画化。
物語の暗さと絵柄が見事にマッチしている。by K. Hattori

 「大どろぼうホッツェンプロッツ」や「小さい魔女」などの児童文学作品で知られるオトフリート・プロイスラーが、ドイツとポーランドにまたがるラウジッツ地方の古い伝説を下敷きにして書いた長編小説「クラバート」。ひとりの少年が魔法使いの弟子になり、そこからひとりの少女の愛によって救済されるというこの物語は、少年少女向きの軽い読み物ではなく、思春期から大人までを対象にした暗いファンタジー小説だ。宮崎駿は『千と千尋の神隠し』でこの小説からクライマックスシーンをそのまま引用して、その影響力を隠そうとしていなかった。「アニメばかり観ていてはいけません。『千と千尋の神隠し』を面白いと思うなら、同時にプロイスラーの「クラバート」も読みなさいなさい」というのが、宮崎駿のメッセージなのかもしれないなぁ……。

 その「クラバート」を、チェコのアニメ作家カレル・ゼマンが完全映画化したのがこの作品だ。見慣れたセルアニメではなく、水彩や鉛筆描きのタッチが残る紙人形を使ったアニメーション。これが民話調の物語にとてもよくマッチしていると思う。ただし原作の小説に比べると、この絵柄ゆえに物語への感情移入が難しくなっていると思う。小説なら登場人物たちのどんな喜怒哀楽の表情も、読者が勝手に想像することができる。でもこのアニメでは、登場人物たちの表情がいつも固定されていて無表情なのだ。この能面のような無表情さの中に、ストーリー展開に合わせてあらゆる感情表現が投影されることになる。

 また原作に比べると物語の細部描写も大きく削ぎ取られ、ストーリーが極めて抽象的で象徴的なものへと変化している。これは上映時間の関係もあると思う。原作を完全に映像化するには、かなりの時間が必要だろう。上映時間1時間13分でこのドラマを構成するには、ドラマのディテールより全体の構成の方が大切だったのだと思う。アニメ版「クラバート」はドラマの骨組みだけががっちりと作りこまれている。でも神話や民話というのは、もともとそうしたものだったのかもしれない。この映画は伝説から小説に姿を変えたクラバートの物語に、再び中世の伝説めいた雰囲気を与えることに成功していると思う。

 この日の試写では、同時上映作品として2本の短編が併映された。クリスマスの夜に子供部屋でおもちゃの人形が動き出す『クリスマスの夢』。新しいおもちゃの登場で、古い人形が捨てられるという話は『トイ・ストーリー』みたいだ。もう1本はガラス職人の想像の中で、ガラス細工の人形や動物たちが動き始める『水晶の幻想』。これはアニメーションの技術もすごいけれど、それ以上に、少しずつ形の違うガラスの人形を作った職人がすごい。ガラス越しに人形の動きを見せるなど、見せるための演出も巧みだ。この短編2本は台詞がなく、アニメーション映像の演出だけで見せる緊迫した世界になっている。

(原題:Carodejuv ucen)

2003年夏公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:日本スカイウェイn.s.w.、ケイブルホーグ
(1977年|1時間13分|チェコスロヴァキア)
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DVD:クラバート
原作:クラバート(プロイスラー)
関連DVD:カレル・ゼマン

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