灰の記憶

2003/04/16 松竹試写室
1944年10月にアウシュビッツで起きた囚人の反乱事件を映画化。
欠点も多いが背筋がぞっとするような場面も多い。by K. Hattori

 第二次大戦中にナチスが作ったユダヤ人強制収容所(絶滅収容所)では、ゾンダーコマンドと呼ばれるユダヤ人たちが働いていた。彼らは囚人の中から選抜された特殊な労働者で、貨物列車で収容所に到着したユダヤ人たちをガス室に送り、死体を片付ける仕事をしていたのだ。その報酬は4ヶ月の延命。ゾンダーコマンドは4ヶ月ごとに、新しい囚人と入れ替わる。任務を終えたゾンダーコマンドたちは、殺されて焼かれてしまうのだ。アウシュビッツのゾンダーコマンドは13期まで続いたが、12期目には大規模な反乱がおきてガス室や焼却炉の一部を破壊することに成功した。この映画はその反乱を、史実に沿って映画化している。

 アウシュビッツで人体実験や拷問の助手をしていたユダヤ人医師ミクロシュ・ニスリの書いた手記をもとに、監督のティム・ブレイク・ネルソンが書いた「グレイ・ゾーン」という戯曲が原作。主人公のハンガリー系ユダヤ人ホフマンを演じるのは、『スクリーム』シリーズのデイビッド・アークエット。別の棟で反乱の準備を進めるポーランド系ユダヤ人を演じるのはスティーヴ・ブシェミ。囚人たちを監視するドイツ人軍曹にはハーヴェイ・カイテル。軍需工場から火薬を盗み出す女囚たちに、ミラ・ソルヴィーノとナターシャ・リオンという豪華キャスト。豪華キャストではあるが、映画はひどくじめじめして陰惨なドラマだ。もっともこのテーマで、明るく楽しい話になるはずがないけれど……。

 IMDbによると本作は予算500万ドルという超低予算映画。それでも戦慄すべきシーンは数多い。ユダヤ人を降ろす列車、ユダヤ人の列、ガス室への入口、その手前にある焼却炉の煙突が一直線に画面に並ぶカットは、アウシュビッツが「死の工場」であることを観客に見せ付ける。青々とした芝生の上に突き出した薬品の投入口から、カップ1杯ほどの薬剤をさっと放り込むと、地下から人間たちの断末魔の悲鳴が響いてくる。ガス室の中から響いてくる、大勢の人間が壁をたたきかきむしる音。真っ白に塗られたガス室の壁は、一度の処刑であちこちが鮮血に染まる。焼却炉の炎と煙は一日中消えることがなく、建物は常にゴーゴーと低いうなり声を上げている。映画の中では音響がかなりの効果を作り出しているように思う。

 映画の導入部はあまり上手いとは思えない。登場人物の誰が誰だかよくわからないし、話がどうなっているのかさっぱりわからないままストーリーが先へ先へと進んでしまう感じだ。舞台劇なら空間が抽象化されているからこうした構成でも観客は芝居に集中できるのかもしれないが、映画では画面のあちこちから情報を読み取ろうとしてかえってまごまごしてしまう。ガス室を生き延びた少女をもっと前に出した方がサスペンスも盛り上がるし、ナチスの将校も含んだ全登場人物の話を聞く役にさせたほうがラストシーンも生きてきたと思う。

(原題:The Grey Zone)

2003年5月公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:アートポート
(2001年|1時間49分|アメリカ)
ホームページ:
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DVD:灰の記憶
DVD (Amazon.com):The Grey Zone
関連洋書:The Grey Zone: Director's Notes and Screenplay
関連DVD:ティム・ブレイク・ネルソン監督
関連DVD:デイビッド・アークエット
関連DVD:スティーヴ・ブシェミ
関連DVD:ハーヴェイ・カイテル
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