ぼくの伯父さん

2003/04/08 映画美学校第1試写室
ジャック・タチの代表作。風来坊のユロ氏と甥っ子ジェラールの交流を描く。
社会風刺というより、これはやはり人間の喜劇なのだ。by K. Hattori

 ジャック・タチの名を今も不動のものにしている代表作。この作品がなければ、タチは今に至るポピュラリティを獲得できなかったのではないだろうか。主人公は『ぼくの伯父さんの休暇』にも登場する風来坊のユロ氏だが、この映画では彼を幼い甥っ子ジェラールとからめたのがミソ。『〜休暇』はギャグを連鎖させたスケッチ風の作品だったが、本作にはきちんとしたストーリーがあり、映画全体を通して浮き彫りにされるテーマのようなものもある。そうしたテーマばかりが先に立つと鼻に付くものだが、この映画はあちこちにちりばめられたギャグがそれを中和していると思う。

 プラスチック工場を経営するアルペル氏の住宅は、オートメ化された超モダン住宅。入口の扉はスイッチひとつで自動開閉し、モダンアートのようにデザインされた庭はきれいに掃除されている。アルペル夫人の兄は下町で気ままな独身生活を送るユロ氏。息子のジェラールを時々学校に迎えに行ってくれるユロ氏だが、アルペル氏も妻も、愛する息子がユロ氏の悪影響を受けるのではないかと心配している。ユロ氏がいつまでもフラフラしているのは、人生に目標がないからだ。定職につき、妻をもらい、家庭を築けば、ユロ氏もアルペル氏の親族にふさわしいまともな暮らしを始めるに違いない。アルペル氏はユロ氏を自分の会社に雇いいれ、アルペル夫人は隣家の住む中年独身女性とユロ氏の見合いを計画するのだが……。

 この映画には2つの世界が描かれる。ひとつはユロ氏が暮らす下町にある、昔ながらの暮らしや人間関係。そこではレンガ造りの古い町並みの中で、さして裕福でもない人々が肩を寄せ合って暮らしている。もうひとつはアルペル氏が暮らす、鉄とコンクリートとガラスでできた近代建築の世界だ。アルペル氏の住居はいささか大げさに描かれているが、これが鉄筋コンクリート作りの郊外型住宅のカリカチュアであることは明らか。映画冒頭が高層マンションを作る工事現場で始まり、映画の最後が古い町並みを壊す工事現場で終わっていることからもわかるとおり、この映画に登場するユロ氏の世界は、少しずつアルペル氏の世界に侵食されている。しかもユロ氏は住み慣れた下町を去っていくのだ。

 ユロ氏が登場する『ぼくの伯父さんの休暇』や『トラフィック』を観てもわかるとおり、ジャック・タチ監督の興味は「人と人との関わり」の中にある。会社の上司と部下、その夫人たちといった利害関係に結ばれたアルペル氏の生活が味気なく見えるのは、そこにタチの愛する「人と人との関わり」が希薄だからだ。しかしアルペル氏の工場の中でも、労働者たちの中には「人と人との関わり」がまだ濃厚に存在する。ユロ氏の失敗でソーセージ状になったホースを、みんなで捨てに行くシーンの楽しさ!

 映画の中では憎まれ役のアルペル氏だが、彼が映画の最後に息子とギュッと手を握り合うシーンは素敵だ。

(原題:MON ONCLE)

2003年初夏公開予定 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ、テアトル梅田
配給:ザジフィルムズ
(1958年|1時間50分|フランス)
ホームページ:
http://www.zaziefilms.com/

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:ぼくの伯父さん
ノベライズ:「ぼくの伯父さんの休暇」「ぼくの伯父さん」
サントラCD:ぼくの伯父さん〜ジャック・タチ作品集
関連CD:Jacques Tati Les Remixes
関連CD:Composers For the Films of Jacques Tati
関連書籍:タチ―「ぼくの伯父さん」ジャック・タチの真実
関連書籍:ジャック・タチ(EMブックス)
関連DVD:ジャック・タチ

ホームページ

ホームページへ