プレイタイム

2003/03/27 メディアボックス試写室
ジャック・タチ監督を破産に追い込んだ70mmの大作コメディ映画。
登場するパリの風景はすべてセットみたいです。by K. Hattori

 ジャック・タチが'67年に監督した70mmの大作。といっても70mm映画の定番である大アクションシーンが展開するスペクタクル巨編になどなるはずがなく、『ぼくの伯父さん』シリーズと同じタチ本人が演じるユロ氏を主役とした、ほのぼの系のコメディ映画になっている。公開当時は批評家から酷評され、観客からもそっぽを向かれ、タチ監督は莫大な負債を抱えて破産してしまったというからお気の毒。

 現在残っているフィルムの上映時間は2時間だが、これは最初の公開後に興行の便宜をはかって30分以上短縮したものだという。今回の〈新世紀修復版〉は、残ったフィルムをできるだけかき集め、さらにデジタル修復作業を施して上映時間を2時間5分にしている。それでもこの映画は、オリジナル版よりずいぶん短くなっている。おそらく完全なオリジナル版(IMDbには155分とある)というのは、今後も観ることはできないのだと思う。映画はこうして、少しずつ消えていくのだ。

 映画の舞台は'67年当時のパリだ。だが劇中にいかにもパリらしい風景はほとんど登場しない。エッフェル塔や凱旋門などの風景は、遠景かガラス戸の反射像として映画に取り込まれている。この映画が「現代のパリ」として描くのは、鉄とガラスとコンクリートでできたモダンなビルであり、空港であり、世界中から人が集まる見本市であり、観光客向けのレストランや土産物店であり、ガラス張りのモダンなアパートであり、深夜営業のドラッグストアなのだ。これらは世界中のどこにでも、似たような風景を見つけられることだろう。タチ監督はわざわざこうしたありふれた風景を、映画の中で描こうとしている。しかしそれは現実そのものではない。タチ監督の視点を通して描かれる風景だ。

 この映画の主人公はタチ監督が演じるユロ氏だが、彼は風景を切り取る便宜的な視点を提供する狂言回しに過ぎない。本当の主役は町のあちこちに隠されている。人々が意図せずして作り上げてしまった、現代都市という人工的な空間。それを「ありふれた風景」として観ずに、見物人の視点で眺めてみるだけで、世界は魅力あふれる劇場空間に一変する。国際見本市会場はスラップスティック・コメディの舞台になり、ビル工事の作業員たちの姿はモダンダンスのように見えてくる。

 映画のクライマックスは、開店したばかりのレストランが破壊されるシーンだろう。無機質だが機能的な空間が、一度徹底的に破壊されてカオスを生み出し、そこから新しい人間的な世界が広がってくる。見ず知らずの人間たちが片寄せあって暮らす大都会。そこで生まれる人間同士の刹那的なつながりの中に、タチ監督はある種の希望を見出しているように思える。ユロ氏がアメリカ人女性に手渡すプレゼントが、その象徴。その意図が伝わった瞬間、世界は一瞬にして遊園地に変わるのだ。爽やか過ぎるラスト。

(原題:Play Time)

2003年初夏公開予定 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ、テアトル梅田
配給:ザジフィルムズ
(1967年|2時間5分|フランス)
ホームページ:
http://www.zaziefilms.com/

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