ぼくの伯父さんの授業

2003/03/25 映画美学校第1試写室
ユロ氏ことジャック・タチがパントマイムについて実地講習する。
タバコや釣りのマイムに大笑いさせられる。by K. Hattori

 ジャック・タチが大作『プレイタイム』撮影中の'67年に、同作品の助監督だったニコラス・リボフスキー監督に撮らせた短編映画。脚本・主演はジャック・タチ。主人公は特別名乗りを上げないが、帽子やパイプやコート姿からして、どうやら『ぼくの伯父さん』シリーズのユロ氏であるらしい。

 近代的なビルの一室を訪れたユロ氏(?)は、部屋に集まったスーツ姿の男たちを前にしてひとつの授業を始める。それは「観察」についての哲学的論考と、その実践としてのパントマイムの講習だ。ひとつひとつの動作もよく観察すれば、そこに人間の真実が浮かび上がってくる。例えばタバコの吸い方ひとつにしても、性別や年齢や職業によって千差万別。それをすべてパントマイムで再現して見せようというのだ。

 映画の中ではタバコのほかに、テニス、乗馬、釣り、郵便配達の授業などが登場するが、パントマイムの奥深さを感じさせるのは「階段でもつまづき方」と「パネルへのぶつかり方」の講義。何気なく無意識に出る人間の動作を、十分に意識した上で動作として再現することがいかに難しいことか。そしてそれをいともたやすくやってのける、タチのパントマイム芸人としての実力とすごさ。もっともこうした芸は、喜劇役者の多くが体に叩き込んでいる基礎的な素養なのかもしれない。

 パントマイムの面白さは、自分がよく知っている動作が劇中で再現されることにあるらしい。映画の中で僕が面白いと感じたのは、タバコ、釣り、階段でのつまずき、パネルへの激突など。逆によくわからなかったのは乗馬とテニスで、特に乗馬は何がどう面白いのかさっぱりわからなかった。これは乗馬をたしなむ人には、抱腹絶倒の場面なんだろうか。それとも乗馬経験の有無に関係なく、これはこういうシーンなのか……。そうした予想すらまったく立てられないくらい、乗馬のギャグはわからない。テニスはそれよりはましだけど、でもやっぱりピンと来なかった。タチはテニスがうまいんだなぁと思った程度。郵便配達はパントマイムというより別種の劇中劇なので、面白くはあるけれど他の芸との単純な比較はできないだろう。

 映画は最後の最後になって、映画冒頭に登場した巨大ビルがミニチュアセットであることを観客に告げ、ユロ氏ことジャック・タチが撮影所の片隅にある小屋に引っ込むところで終わる。ここでは「パントマイムの授業」というフィクションが、映画撮影所というフィクション発生装置に取り込まれる形になっている。ユロ氏はフィクションの中にしか存在し得ないという観客なら当然知っていることを、なぜわざわざタチはここで映画に描く必要があったのか。オチの付け方としては、いささか不可解にも感じる。この当時のタチにとって、このエンディングが必要だったんだろうか。自習する生徒たちを残したまま、平然と去っていくユロ氏の姿で終わってもいいと思うけれど。

(原題:COURS DU SOIR)

2003年初夏公開予定 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ、テアトル梅田、他
配給:ザジフィルムズ
(1967年|28分|フランス)
ホームページ:
http://www.zaziefilms.com/

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