アンナ・マグダレーナ・バッハの日記

2003/03/06 映画美学校第2試写室
妻アンナ・マグダレーナ・バッハの視点から見たバッハの伝記。
実際の音楽家たちによる演奏シーンが素晴らしい。by K. Hattori

 18世紀ドイツの大作曲家ヨハン・セバスチャン・バッハの生涯を、2番目の妻アンナ・マグダレーナの視点から描いた伝記映画。映画の中にはバッハの曲がギッシリと詰め込まれているのだが、そのトップバッターは有名な「ブランデンブルグ協奏曲」だ。この曲が作曲されたのは1721年。同じ年にアンナ・マグダレーナはバッハの後添えになっている。こうして映画は、登場する事件と楽曲がピタリと一致しながら進行していく。

 監督はジャン=マリー・ストローブとダニエル・ユイレ。バッハを演じているのはオランダのチェンバリストでオルガニストでもあるグスタフ・レオンハルト。マグダレーナ役のクリスティアーネ・ラングはドイツのソプラノ歌手だという。劇中にはニコラウス・アーノンクール指揮のウィーン・コンツェントゥス・ムジクスや、バーゼル・スコラ・カントルム演奏団、ハノーファー少年合唱団などが出演している。つまり音楽家による音楽家の映画になってるのがこの映画の特徴。演奏シーンはほとんどライブを観ているような迫力がある。演奏そのものは事前に録音しているのかもしれないが、ひとつひとつのカットを長くとっているのでライブで演奏を観ているような感覚になる。(演奏のミスタッチがそのまま収録されているようなところもあるから、同録しているところもあるのだろう。)

 たいていの人にとってクラシック音楽は退屈なものだし、バッハのような古典中の古典ともなればなおさらだ。音楽の教科書に載っているような小太りのバッハの肖像画と、典雅ではあるがテンポのとろい演奏が、人々の持つ「バッハ」のイメージではないだろうか。でもこの映画のバッハ像は、それとはだいぶ違う。バッハ役のレオンハルトは痩せていて、まるで第二次大戦映画に出てくるドイツ軍将校のような精悍な顔立ち。演奏シーンでは古楽器を使って、贅肉のないタイトでスピーディーな演奏をしている。

 この映画に登場するバッハは、かなりの偏屈オヤジだ。変人と言ってもいい。芸術家として神に奉仕する聖なる面と、家庭の中で子供たちの教育に悩み、自分の地位を守るために政治的駆け引きに興じるといったひどく俗な面も持ち合わせた男。家の外では音楽という仕事に没頭し、家庭に帰ってきても妻のために曲を作る音楽バカ。そんなバッハの強烈な個性と力強い楽曲の合間に、家族の生や死が淡々と語られる。

 僕がバッハ演奏で目からうろこを落としたのは、10数年前にムジカ・アンティカ・ケルンの「ブランデンブルグ協奏曲」をラジオで聴いた時だった。スピード感あふれるその演奏は、コンボスタイルのモダンジャズのような緊張感があった。とにかく演奏のスピードが速い。アンサンブルとソロ演奏の掛け合いはスリル満点。そんなわけで、僕のバッハに対する印象はこれで一変してしまったのだ。この映画にはそれと同じような衝撃があった。

(原題:Chronik der Anna Magdelena Bach)

2003年5月中旬公開予定 ユーロスペース
配給:ユーロスペース
(1967年|1時間34分|日本)
ホームページ:
http://www.eurospace.co.jp/

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DVD:アンナ・マグダレーナ・バッハの年代記
原作:バッハの思い出(アンナ・マグダレーナ・バッハ)
関連DVD:ジャン=マリー・ストローブ監督
関連DVD:ダニエル・ユレイ監督
関連DVD:グスタフ・レオンハルト
関連DVD:クリスティアーネ・ラング
関連CD:ニコラウス・アーノンクールのバッハ
関連DVD:ブランデンブルグ協奏曲(ウィーン・コンツェルトゥス・ムジクス)
関連CD:ムジカ・アンティカ・ケルンのバッハ

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