フーガの技法

2003/03/06 映画美学校第2試写室
バッハの代表曲「フーガの技法」をモチーフにした抽象アニメ。
観ていると気持ちよく眠りに引き込まれる。by K. Hattori

 J.S.バッハ作曲の「フーガの技法」をモチーフにした短編アニメーション映画。モノクロームの画面にフーガの主題を示す四角形や、数々の幾何学模様が乱舞するアブストラクトシネマ(抽象アニメ)だ。監督は石田尚志。紙の上にペンと修正液でちょっとずつ絵を描き進め、その過程をコピー機で複写したものを原画にしてガラスの上に3枚重ね、透過光を使って撮影しているのだという。絵コンテを作らず、CGを使わず、楽曲の楽譜をもとにして全体を組み立てていったという。

 フーガとはひとつの主題を変形して繰り返していく楽曲形式のこと。ひとつのモチーフが何度も形を変えながら互いに追いかけっこをするように聴こえるため、遁走曲と訳されることもある。そしてフーガと言えば、その代表的作曲家はバッハなのだ。バッハと言えばフーガ、フーガと言えばバッハ。両者は切っても切れない関係にある。バッハは多くのフーガを作曲しているが、晩年に作曲された「フーガの技法」はその集大成。だがその精緻きわまる構成や、楽器の指定がなかったこと、作曲自体が未完のまま中断されていることなどから、長く実際に演奏されることのないまま放置されていたというから驚く。結局この曲の演奏会での初演は、20世紀に入った1927年なのだとか……。

 この映画はそんな「フーガの技法」を楽器で演奏するのではなく、二次元の「絵画」に置き換えようとするものだ。バックグラウンド音楽として「フーガの技法」が流れるのに合わせて、抽象的な幾何学模様が次々に現れて動き回る。主題を示すのは横長の四角形。それが画面の中で大きくなったり、小さくなったり、近づいたり、遠ざかったり、二重になったり、回転したり、画面から消えたり、また現れたりを繰り返す。それと同時に、主題以外の要素が画面の中に現れ、主題の四角と競り合い、主題を覆い隠したかと思うと、そこからまた再び主題が浮かび上がってくる。

 音楽自体は古典的なものなのだが、目の前に広がる風景(映像)はきわめて抽象的なパターン。これはスタン・ブラッケージの無声フィルムとあまり変らない。音楽と映像がぴったりシンクロしていることもあって、これは結構トリップ感がある。観ていると脳髄が麻痺してくるような不思議な感覚に……。いや、要するに眠くなってくるってことなんですけどね。僕は2曲目の途中からついウトウトしてしまいました。

 僕はブラッケージの映画ではあまり寝ないのだけれど、この映画は眠い。退屈なのではなくて、音楽の心地よさと映像の作り出すリズムが見事にマッチして、観ている者の感覚をものの見事に弛緩させていくのだ。これはこれでなかなかスゴイことなんじゃないだろうか。目を閉じて視覚情報が遮断されても、耳から入る音楽によって情報が途切れず継続しているような感覚になるのかな。それだけ映像と音が緊密に結びついているということだ。

(原題:DIE KUNST DER FUGE)

2003年5月中旬公開予定 ユーロスペース
配給・問い合せ:石田尚志
(2001年|19分|日本)
ホームページ:
http://www1.ttcn.ne.jp/~fugue/

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