おばあちゃんの家

2003/02/25 メディアボックス試写室
都会暮らしの少年が田舎の祖母宅にあずけられるのだが……。
観る人の記憶を呼び覚ますエピソードの数々に涙。by K. Hattori

 『美術館の隣の動物園』でデビューした、イ・ジョンヒャンの第2作目。母親とふたりでソウルに住んでいるサンウは、田舎にある母親の実家にしばらく預けられることになる。母親は仕事の都合で、サンウの世話をすることができないのだ。初対面のおばあちゃんは、腰がまがり、耳が遠くて、口がきけないとのこと。サンウにとって、彼女はまるで未知の星からやって来た生物のように見える。自分の不満をぶつけるように、おばあちゃんに毒づき、近所の少年を邪険にし、自分ひとりの世界に閉じこもっていくサンウ。だがそんなサンウに対し、おばあちゃんは少しも嫌そうな顔をしない。ただちょっと寂しく悲しそうな表情で、サンウを見つめるのだった……。

 映画序盤のサンウは、ひどく不人情で乱暴な子供のようにも思える。こうしたサンウの姿から、ソウルでサンウがどんな生活をしているのかが見えてくる。缶詰をつつきながら、黙々とご飯を食べるサンウ。小さなゲーム機に熱中し、ロボットのオモチャでひとり遊びし、近所の子供に乱暴な口をきき、子犬を蹴飛ばすサンウ。たしかに手が付けられない乱暴者だ。でも彼はそんな子供として、母親に育てられてしまったのだ。サンウは本当は悪い子じゃない。それは映画を観ていればわかってくる。このあたりは、儒教伝統の性善説がベースにあるのかもしれない。

 観ているうちに、自分の中に眠っていたさまざまな記憶が蘇ってくる映画だと思う。もう記憶も薄れているような遠い昔、田舎の親戚の家にひとりで泊まった時の記憶。ちなみに僕の場合、それは千葉なんだけど……。未舗装の道。田んぼや畑。農家の牛。近所の商店。この映画に登場する韓国の田舎の風景は、そのまま30年前の日本の田舎の風景につながっている。田舎の家特有の、ちょっと湿っぽくて、埃っぽくて、カビくさいようなニオイ。トイレもくみ取り式で、しかも家の外にある。夜中のトイレは、子供には不気味で恐ろしい場所だ。こうした描写もまた、僕自身の記憶とリンクする。

 映画の中にはいろいろなエピソードが詰め込まれていて、その中のすべてではないが、かなりの数が観る人の記憶と共鳴するようになっている。田舎暮らしの経験がない人だって、子どもの頃のわがままで、親しい誰かを困らせたり悲しませたりした経験があるだろう。僕がホロリと来たのは、サンウが「ケンタッキー・チキンが食べたい!」と大騒ぎするシーン。僕も子どもの頃、同じように誰かを困らせた記憶がある。その相手が誰だったのかはもう忘れてしまったけれど……。

 サンウはおばあちゃんとの暮らしの中で、わがままで乱暴な自己中心的に振る舞う子供から、ごく自然に優しい子供へと変身していく。いよいよソウルに帰る前の晩の、サンウとおばあちゃんのシーンが泣かせる。あまり表情を見せなかったおばあちゃんが、ちょっと涙ぐむような仕草を見せる場面にもらい泣き。

(英題:THE WAY HOME)

2003年3月29日公開予定 岩波ホール
配給:東京テアトル、ツイン 宣伝:樂舎
(2002年|1時間27分|韓国)
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DVD:おばあちゃんの家
関連DVD:美術館の隣の動物園

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