ばかのハコ船

2003/02/04 シネカノン試写室
『どんてん生活』の山下敦弘監督が山本浩司主演で撮ったドラマ。
この「ぬる〜い感じ」がたまらなく快感。クセになりそう。by K. Hattori

 『どんてん生活』の山下敦弘監督が、再び山本浩司主演で撮ったぬる〜いドラマ。このぬる〜い感じは製作側の意図的なもの。映画の完成度は非常に高く、無駄もほとんどないし、むしろ引き締まって緊張感もあるモノなのだが、そこから観客に伝わってくるのが、どうしようもなくぬる〜い感じなのだ。このぬる〜い感じはもちろん作り手の意図したもの。ここまで力が抜けきっている映画を、ここまで面白く観客に提示できるというのも才能だと思う。

 東京でインディーズの健康食品「あかじる」の製造販売を始めた大輔。だが販路の開拓にことごとく失敗して、できたのは借金だけ。かくなる上はと、起死回生の突破口を求めて故郷の町に戻ってくる。一緒に仕事をしている恋人の久子も一緒だ。だが「あかじる」の評判はすこぶる悪く、親やかつての同級生たちを頼った営業活動はあっという間に袋小路。父親はそんな仕事を辞めてまともに働けと言うのだが、大輔はそんな声に反発して家を飛び出してしまう。実家に久子だけを残し、大輔が向かった先は……。

 主演の山本浩司が、貧相なからだをさらしているのがいい。それに比べると恋人役の小寺智子は肉付きが良くて(太っているわけではない)、いかにも「おふくろさま!」という感じ。このふたりがどういうわけだか一緒に商売をしていて、親への紹介もないままいきなり男の方の実家に転がり込んでしまう。男の方はかなり無神経なのだが、女の方も神経が相当に図太いのだ。このふたりの関係が映画の見どころのひとつ。張り切って向かった営業先(昔の同級生宅)でケチョンケチョンに言われた後、学校の裏で反省会をやるところなど最高に面白い。一方的にまくし立てていた大輔が、久子に反論されて何も言い返せなくなってしまう。序盤にあるこのシーンで、このふたりの関係性がすべて見えてしまううまさ。このヒロインは、これでなかなかタフなのです。

 日常というのはどんなにドラマチックな場面も、日常の中に塗り込めて無効化してしまうようなパワーがある。大輔が昔の恋人マドカの家に転がり込んでいるところに、昔の友人と久子に踏み込まれるシーンは最高にエキサイティング。ここでどういうオチを付けるのかと思ったら、あっと驚くアナログSFXで観る者を唖然とさせる。これにはたまげた。夢やぶれた主人公たちが故郷の町を後にするシーンのオチもすごかった。文字通り“オチ”なのだ。

 この映画に出てくる人たちの格好悪さやみっともなさが、ひどく身に染みる。口先ばかりで行動が伴わない理論派の大輔。ブツブツ文句ばかり言っている八百屋の尾崎。それに比べるとヴェロニカことマドカは、自分の夢を自分なりの方法で実現させてしまうのだから偉いものだ。偉いけれど、別に格好よくはない。普通の人の人生などしょせんはこの程度のことか。僕もなぁ……。

2003年GW公開予定 テアトル新宿、テアトル梅田・他
配給・問い合せ:ビターズ・エンド
(2002年|1時間51分|日本)
ホームページ:
http://www.mctheater.com/bakahako.html

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:ばかのハコ船
関連DVD:山下敦弘監督
関連DVD:山本浩司

ホームページ

ホームページへ