SWEET SIXTEEN
スイート・シクスティーン

2003/01/16 銀座シネ・ラ・セット
母に愛されたいと願う15歳の少年の心が生み出した悲劇。
ケン・ローチ監督の映画はいつも切ない。by K. Hattori

 グラスゴー近郊にある小さな港町。15歳のリアムは学校にも通わず、相棒のピンボールとタバコ売りで小銭を稼いでいる。母親のジーンはやくざ者の恋人スタンの罪をかぶって刑務所に服役中。リアムは大嫌いなスタンと衝突して、家を飛び出してしまう。姉シャンテルの部屋に居候を始めたリアム。その夢は出所してくる母を迎えるため小さな家を購入し、母子水入らずの新生活を始めることだ。とにかく母をスタンと別れさせることだ。ある日スタンがまとまった量の麻薬を仕入れたことを知ったリアムは、隠し場所からそれを奪って町で売りさばき始める。稼いだ金で、母子で暮らせる家を買うのだ。だがそんなリアムたちの動向を、本職のやくざたちが見逃すはずはない。リアムとピンボールはある日突然車に押し込まれ、町の顔役の前に引きずられていく……。

 イギリス低所得者階層の生活をつぶさに見つめ続けてきた、ケン・ローチ監督の新作だ。脚本はローチ監督と『カルラの歌』『マイ・ネーム・イズ・ジョー』『ブレッド&ローズ』で組んでいるポール・ラヴァティ。リアム、ピンボール、シャンテルを演じたのはほとんど演技には素人の新人で、母ジーンや恋人スタンを演じたのはプロの俳優たち。リアム役のマーティン・コムストンは時にぎこちなく硬い芝居をするのだが、それが過酷な環境の中で強くしぶとく生き抜こうとしているリアムのキャラクターとドンピシャリの相性を見せる。随所で見られる自然な動作や表情も素晴らしい。プロの演技者が「演じ」ているものを、彼はスッピンの存在感で表現してみせる。

 頭の良さと大人顔負けの度胸で、ドラッグディーラーとして出世していくリアム。だが彼の夢は町の顔役になることでも、金持ちになることでもない。彼の夢は「母親と親子水入らずで暮らしたい」という、ただそれだけのことなのだ。小さくてもいいから、肉親の情が感じられる人並みの生活がしたいと願うリアム。母親だって自分のことを愛してくれているはずなのに、それがチンピラのスタンに邪魔されていると感じているリアム。幾つかの危険を乗り越えてようやく手にしたかに見えた彼の幸福が、あっという間に崩壊するラスト!

 このラストシーンに至るまで、物語の中には周到な伏線が張られている。そのためリアムの行動もその結果も、ある意味で起きるべくして起きた事件のように見えて、それ自体に衝撃やショックというものはない。彼が刑務所の面会日に母親と言葉を交わした時から、彼が母の恋人や祖父に殴られて家を飛び出した時から、この結末は少しずつリアムに忍び寄り、最後の最後にとうとう彼に追いついて食らいつく。リアムの悲劇は彼がひたむきに母を愛し、母に愛されたいと願ったことの中にある。姉のシャンテルがそうしたように、彼が母を見限っていれば、この悲劇は避けられたに違いない。だが15歳の少年リアムには、それができなかったのだ。

(原題:Sweet Sixteen)

2002年12月28日公開 銀座シネ・ラ・セット
配給:シネカノン
(2002年|1時間46分|イギリス、ドイツ、スペイン)
ホームページ:
http://www.cqn.co.jp/sweetsixteen/

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:スイート・シクスティーン
サントラCD:スイート・シックスティーン他
関連DVD:ケン・ローチ
関連書籍:ケン・ローチ

ホームページ

ホームページへ