ティント・ブラス 秘蜜

2002/12/18 TCC試写室
エロスの巨匠ティント・ブラスがヴィスコンティ映画をリメイク。
ヒロインの相手役になる男優が安っぽすぎる。by K. Hattori

 かつて大作ポルノ『カリギュラ』で世界の注目を浴び、最近は『背徳令嬢』『背徳小説』『郵便屋』などのエロス作品で、日本のビデオとDVD市場に作品をリリースし続けているティント・ブラス監督の最新作だ。今回は19世紀の小説家カミッロ・ボイトの小説「官能」を、第二次大戦中のイタリアに舞台を移して映画化した文芸調のエロス大作になっている。じつはかのルキノ・ヴィスコンティも同じ小説を『夏の嵐』として映画化している。つまりこの映画は、ヴィスコンティ映画のリメイクなのだ! 主演は『髪結いの亭主』『妻の恋人、夫の愛人』のアンナ・ガリエナ。音楽は巨匠エンニオ・モリコーネ。上映時間はなんと2時間7分。これは力が入っている。

 第二次大戦末期の1943年。上流階級の夫人リヴィアは、劇場で見かけたドイツ軍の若い将校ヘルムート中尉に心惹かれる。リヴィアは20歳以上も年上の夫カルロと愛のない生活を続けていたが、ヘルムートとの出会いで自分の中の官能が再び目覚めるのを感じた。魚心あれば水心。この気持ちは相手にも伝わり(あるいは気持ちを見透かされ)、ヘルムートとリヴィアは深い仲になる。リヴィアは彼とのセックスにのめり込み、ギャンブル狂の彼に金を与え、ある時はいかがわしい娼館で、ある時はヴェネチアの隠れ家で、彼が与える官能の世界に身を任せる。だが連合軍がイタリアに迫った日、ヘルムートに会うため隠れ家に向かったリヴィアが見たものは……。

 やたらとズームを使うのが目障りな部分もあるのだが、これはヴィスコンティ風の意匠を模倣したものかもしれない。時代背景をナチス時代にしたのは、『地獄に堕ちた勇者ども』に対するオマージュかも。物語は『夏の嵐』とほとんど変わらないようだが、ティント・ブラス作品だけに直接的なセックス描写が多く、それが物語の流れを停滞させてしまうところも多い。例えば娼館でのセックス描写の数々など、正直言って長すぎると思う。これはボカシなしで女性の性器が画面に次々映し出されるのが本来の姿なのだろうが、仮にボカシがなくても似たようなシーンばかりが続くのは単調だろう。

 しかしこうした長さ以上にこの映画がダメなのは、ヒロインが夢中になるドイツ人青年将校が登場した時から下品下劣な男にしか見えず、まるで知性も品性も感じられないこと。この男は男性の持つあらゆる魅力を、すべて身につけていなければならない。エリート軍人が持つ硬質で鋭角的な男らしさ。金髪碧眼のハンサムな顔立ちと鍛え上げられた肉体が放つセックスアピール。そしてこの男の手中には権力もある。思慮分別があるはずのヒロインが、どうしようもなく夢中になってしまうだけの魅力を、ヘルムートは持っているはず。ところがこの映画では演じている俳優がどうしようもなく安っぽく、ねっとりとした品のない流し目にリヴィアがよろめいたように見えてしまうのだ。

(原題:Senso '45)

2003年2月15日 銀座シネパトス
配給:クリエイティブアクザ 宣伝協力:スキップ
(2002年|2時間7分|イタリア)
ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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DVD:ティント・ブラス秘蜜
サントラCD:Senso '45
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