ケミカル51

2002/12/12 GAGA試写室
サミュエル・L・ジャクソンとロバート・カーライル主演のアクション・コメディ。
タイトルは「ケミカル・フィフティーワン」と読むそうです。by K. Hattori

 大学の薬学部を優秀な成績で卒業しながら、マリファナ吸引の現行犯逮捕で未来をふいにしてしまったエルモ。それから30年後、犯罪組織の一画で薬物調号の仕事をしていた彼は、画期的な新ドラッグ〈POS51〉の開発に成功する。裏市場に出回るあらゆるドラッグより強力な新ドラッグは、市場に出回っているごく普通の売薬から作れるためまったくの合法。この新薬の処方を手に入れれば、危ない橋を渡ることなく巨万の富を得ることが出来るのだ。だがエルモはその処方を持ったまま自分のボスを裏切り、イギリスの犯罪組織にこの処方を売り渡そうとする。それを知ったボスはエルモを連れ戻すため、凄腕の女殺しダコタを追跡に向かわせる。目的地はリバプール。だがそこでエルモの護衛役をしていたのは、ダコタのかつての恋人フィーリクスだった。

 画期的な発明をした科学者が犯罪組織に追われ、それを守ろうとする男と殺し屋の女が科学者に付いて回るという物語だが、天才科学者が色白のインテリではなく、ひと癖もふた癖もある男だったからそこにイロイロとおかしな事件も起きる。新ドラッグの処方を頭に仕舞い込んだままあちこちの組織を渡り歩くエルモを、サミュエル・L・ジャクソンが演じている。この映画は彼の初プロデュース作品で、実際に映画製作にかなりいろいろタッチしているらしい。相棒フィーリクスを演じるのはロバート・カーライル。殺し屋ダコタを演じるのはエミイー・モーティマー。他にこの手のイギリスものでは定番の顔となっているリス・エヴァンスが顔を出す。監督は香港映画界出身のロニー・ユー。

 この映画の面白さは物語の筋より、登場人物のキャラクターにある。特にカーライルが演じているフィーリクスという人物が、大のアメリカ人嫌いという設定になっているところがポイント。フィーリクスのアメリカ人に対する敵愾心が、彼自身をより「イギリス人らしい行動」へと駆り立てて、それを強調する。ただしこうした文化ギャップの面白さは、映画序盤ではあれこれとギャグになりこそすれ、中盤以降になると薄れてきてしまう。

 斜に構えたユーモアや残虐なギャグの数々など毒のある描写が面白いし、数々のアクションシーンもそれなりに見応えはある。しかしそれらをすべてひっくるめても、映画自体が非常に小粒であるという印象は否めない。おそらく物語の規模に比べて、俳優が豪華すぎるのでしょう。サミュエル・L・ジャクソンやロバート・カーライルが出演するなら、これ以上の何かを観客は映画に期待するのではないだろうか。ロニー・ユーの演出はそつなく小ぎれいにまとまっているのだけれど、期待されたのは物語の枠組みをぶっ壊す寸前まで突っ走る、破格の勢いなりスピード感であったようにも思う。ギャグもアクションも、あとひとつパンチが足りない。ラストでそれまでの含み笑いが爆笑に変わるような、あと一押しもほしかった。

(原題:The 51st State)

2003年新春公開予定 ニュー東宝シネマ他・全国東宝洋画系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給 協力:アット・エンタテインメント
(2002年|1時間32分|アメリカ、イギリス、カナダ)
ホームページ:http://www.c-51.com/

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DVD:ケミカル51
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