ベンデラ−旗−

2002/10/31 ル・シネマ1(マスコミ試写)
インドネシアの小学生コンビがジャカルタ市内を駆け回る。
実験精神は買うがまだチグハグな印象。by K. Hattori

 インドネシアの首都ジャカルタで暮らす小学生ブディとロシは、家も隣同士という幼馴染みの仲良しコンビ。ふたりはある週末、先生から月曜日の国旗掲揚係を命じられる。国旗係の第一の仕事は、その週に使った国旗を家に持ち帰って洗濯すること。ところが持ち帰った国旗がいろいろなトラブルに巻き込まれて、あっちこっちに行ったり来たり。ブディとロシも、国旗を追いかけてジャカルタ中をかけずり回ることになる。

 監督はこれが長編第2作となるナン・アハナス。全編ビデオ撮りの低予算映画で、手持ちカメラがジャカルタの路地裏にずかずかと入り込んでいく。映画の狙いとしては、国旗とそれを運ぶ小学生を使って、現代のインドネシア社会の一断面を見せようという趣向。小学生コンビの移動によって、映画の視点は次々に移動していく。それに合わせて、映画に登場する風景も次々に変化していく。ひとつのゴールを目指して主人公たちが旅をするという点で、この映画はロードムービーの一変種と言うこともできるだろう。

 アハナス監督はドキュメンタリー映画も撮る人らしいが、この映画は意図的にドキュメンタリータッチになることを忌避している。セットを使わず、すべては路上でのロケ撮影。多くの場面はろくすっぽ撮影許可も取らない隠し撮りだろう。それに加えて、画像の粗いビデオでの撮影。これだけで普通はドキュメント調になりそうだが、この映画はドラマのそこかしこに映画ならではの虚構を挿入して、主人公たちが実景の中に溶け込んでしまうことを防ごうとしている。例えば口笛での会話。短いカットをつないでいくスピーディーな編集。そして音楽とシンクロさせたMTV風のシークエンスまである。

 映画に登場する1枚の国旗は、そのままインドネシアという国を象徴している。小学生コンビの旗探しは、そのまま彼らの「国探し」でもある。映画は小学生コンビの冒険を通して、現代のインドネシア社会そのものを描こうとしているのだ。映画の最後で国旗掲揚に合わせて過去のシーンがフラッシュバックされることが、そうした映画の作り手たちの意図を示している。

 だが僕はこの映画をまったく受け入れられない。物語の展開がいささか類型的だし、画像の粗さも僕の許容範囲を超えていた。何よりもこの映画、絵のつながりにリズムもテンポもないのだ。絵と絵がつながっていくことで生まれる映画的な快感が、この作品からはまったく感じられない。電車の中でウォークマンの若い男と交流を持つMTV風のシーンにしても、僕には退屈で退屈で仕方がなかった。編集のテンポが音楽とずれているように思う。1時間15分という上映時間はコンパクトだが、この映画にはまだ長すぎる。これがあと30分短ければ、面白く観られたかも。でもそうすると短編扱いになってしまって、映画祭には出品できないのか……。

(原題:Bendera/英題:The Flag)

第15回東京国際映画祭・コンペ部門
配給:未定
(2002年|1時間15分|インドネシア)
ホームページ:http://www.tiff-jp.net/

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DVD:ベンデラ−旗−
関連DVD:ナン・アハナス監督

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