ロベルト・スッコ

2002/10/24 メディアボックス試写室
80年代のフランスを駆け抜けた連続殺人鬼ロベルト・スッコの生涯。
セドリック・カーン監督による恐るべき実録犯罪映画。by K. Hattori

 1981年。ヴェニス郊外の自宅で些細な口論から母親を刺殺したロベルト・スッコは、帰宅してきた父親も殺してふたりの死体をバスダブに沈めた。逮捕されたスッコは精神分裂病と診断されて医療刑務所で10年の加療収監処分を受けるが、5年後に脱走してフランスに渡り、窃盗、家宅侵入、強盗、暴行、誘拐、殺人などを繰り返すようになる。やがて逮捕されたスッコは、刑務所の中で自ら命を絶った。この映画は'80年代に実在した事件を、『倦怠』のセドリック・カーン監督が映画化したドキュメンタリータッチの犯罪映画だ。スッコについては彼をモデルにした「ロベルト・ズッコ」という戯曲が存在し、日本でも堤真一主演で上演されている。だがカーン監督はこの戯曲ではなく、ジャーナリストのパスカル・フロマンが3年かけて取材したルポルタージュをもとに、この映画のシナリオを作った。映画に登場する人名は、主人公スッコ以外はすべて仮名。しかしそこで何が起きたのかという事件のディテールは、状況から会話に至るまで、すべて現実そのものを心がけたという。

 このような犯罪映画では、「犯罪がなぜ起きたか?」と「犯罪がどのように行なわれたか?」が物語の大半を占めるものだ。だがこの映画では、そのどちらもあえて描こうとしていない。スッコがなぜ犯罪者になったのかという理由を、この映画は求めようとしていないのだ。被害者たちもたまたま偶然その場でスッコに出会ってしまったという理由だけで、ある者は殺され、ある者は犯され、ある者は一生残る傷を負わされ、別のある者は無傷のまま解放される。スッコの前で生と死をわけるものは何なのか。それは誰にもわからない。おそらくスッコ本人ですらわからないのだろう。

 またこの映画は徹底した実証主義なので、被害者が死亡して確たる証言が得られない事件については物語から省略している。映画に登場するのは残された死体と、見つかることのない行方不明者だけだ。そこで被害者とスッコの間に何が起きたのか、それは永久にわからない謎とされる。こうして必然的に、映画に登場するのはスッコの犯罪の中でも小さなものばかりになる。(描かれる殺人事件は1件の警官殺しのみ。)しかしこうしてスッコの犯罪の大半が隠されることで、かえって彼の抱えている底知れない狂気が浮かび上がってくる。ホラー映画のモンスターと同じで、本質的な恐怖の正体はあえて観客に見せない方が恐いのだ。スッコはモンスターではない。だがスッコという人間の行動や言葉の裏側に、時折ちらちらとモンスターの影が見え隠れする恐怖!

 この映画は最初から最後まで、主人公スッコを正体不明の人物として描いている。偽名で暮らしているスッコの本名が明らかにされるのは映画の終盤になってからだし、スッコの死顔は画面に登場せず、「ロベルト・スッコが死んだ」という言葉で映画を断ち切っている。すごい映画だ。

(原題:ROBERTO SUCCO)

2003年正月第2弾公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:セテラ、バップ 配給協力:ロングライド
(2001年|2時間4分|フランス、スイス)
ホームページ:http://www.cetera.co.jp/

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DVD:ロベルト・スッコ
原作:ロベルト・スッコ
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主題歌CD:アイランド・イヤーズ(「Sleep」収録)
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