パープルストーム

2002/10/21 TCC試写室
記憶を失った若いテロリストが警察に偽の記憶を与えられ……。
「胡蝶の夢」をテーマにしたハードアクション。by K. Hattori

 『むかし、荘周は自分が蝶になった夢を見た。楽しく飛びまわる蝶になりきって、のびのびと快適であったからであろう。自分が荘周であることを自覚しなかった。ところが、ふと目がさめてみると、まぎれもなく荘周である。いったい荘周が蝶となった夢を見たのだろうか。それとも蝶が荘周になった夢を見ているのだろうか』。中国の古典「荘子」斉物論編に登場する、有名な「胡蝶の夢」の故事だ(引用は岩波文庫から)。映画『パープルストーム』は、この故事をもとにしたサスペンス・アクション映画だ。映画の随所に登場する蝶のモチーフが、この故事を嫌でも観る者に思い出させる。

 1979年。カンボジアで恐怖政治を行なっていたポル・ポト派(クメール ・ルージュ)は、政権を放棄してジャングルの中でのゲリラ戦に転じた。優秀 な兵士たちの一部は海外に送られ、国外から本国の革命を支援する役目を担うことになった。それから19年後。香港でテロリストに貨物船が襲撃され、化学兵器のコンテナが奪われるという事件が起きた。その際、身柄を確保されたひとりの若いテロリストは、大けがで自分の過去に関する一切の記憶を失ってしまう。彼の名はトッド。クメール・ルージュ出身の国際テロリスト、ソンの息子であり、グループの幹部メンバーとして、世界各地のテロ事件に加担していたお尋ね者だ。警察はソンがトッドを取り戻しに来ることを予測し、一味を逮捕するため周到な準備を進める。同時に警察は記憶喪失になったトッドに、「ソン一派に潜入していた警察の捜査官」という偽の記憶を植え付ける。

 映画は切れ味鋭いアクション映画で、警察とテロリストが激しい銃撃戦を繰り広げる大規模なアクションシーンが劇中に何度かある。弾丸の雨の下をくぐり抜けていくテロリストたちの身のこなしが素晴らしい。走り、跳び、宙返りし、飛び降り、よじ登り、滑走し、その間にも銃を撃ちまくる。この映画はアクションシーンだけを取っても、水準以上の仕上がりになっている。だが映画の主要なテーマは、テロリストとしての過去の記憶と、善良な潜入捜査官としての偽の記憶の間でもがくトッドの苦悩にある。テロリストとしての記憶が戻った後も、潜入捜査官としての過去にしがみつこうとするトッド。だがグループの中に自分の実の父と妻がいるからだ。父との温かい思い出。だがそれは悪夢のような別の過去と隣り合わせにある。

 主人公トッドを演じるのは、『華の愛/遊園驚夢』『重装警察』のダニエル・ウー。『美少年の恋』『玻璃〈ガラス〉の城』などでは繊細な二枚目を演じていた彼だが、最近は骨っぽい男らしさを見せるようになった。共演者の中では女性テロリストを演じたジョシー・ホーが素晴らしい。カナダの陸軍士官学校出身(すごい経歴)という彼女が、この映画の中ではもっとも激しいアクションを演じている。

(原題:紫雨風暴 PURPLE STORM)

2002年11月16日公開 キネカ大森
配給・宣伝:アートポート
(1999年|1時間53分|香港)
ホームページ:http://www.purple-storm.jp/

Amazon.co.jp アソシエイト

DVD:パープル・ストーム
関連DVD:テディ・チャン監督
関連DVD:ダニエル・ウー
関連DVD:ジョシー・ホー

ホームページ

ホームページへ