竜馬の妻とその夫と愛人

2002/10/02 シャンテ・シネ
三谷幸喜原作の舞台劇を市川準監督が映画化したコメディ。
全体にベタついて少しも笑えなかった。by K. Hattori

 市川準監督の最新作は、人気作家・三谷幸喜の原作脚本による時代劇コメディ。時代劇と言っても、物語の舞台は明治の世だ。タイトルの『竜馬』とは、もちろん幕末の風雲児・坂本竜馬のこと。この物語は竜馬の死から13年後、竜馬の未亡人おりょうが、竜馬の十三回忌に出席するか否かというところから始まる。明治が舞台でも時代劇なのか? チャンバラが出てくるわけでもないのに? この物語に関しては、僕は間違いなく「時代劇」だと思う。何しろこの物語に登場する人間たちは、誰も「明治」という時代を生きていない。竜馬の未亡人おりょう。竜馬の死後、彼女を妻に迎えた松兵衛。竜馬の元部下で、おりょうとも旧知の仲である政府の役人・覚兵衛。彼らの心は、今でも竜馬が死んだ幕末維新の動乱期のただ中にある。物語の中でただひとり、過去を振り向くことなく未来を見つめる虎蔵という男が登場するのだが、この男の正体もじつは……というオチが映画の終盤にやってくる趣向だ。

 出演は鈴木京香、木梨憲武、中井貴一、江口洋介といった顔ぶれ。これは基本的にインディーズの映画作家である市川準監督にとって、非常に豪華なものだと思う。原作脚本が売れっ子の三谷幸喜であればこそ、こうした贅沢も可能になったのだろう。劇中では明治初期の横須賀の長屋暮らしを、緻密なセットで再現している。このセットも力作。物語は基本的にこの長屋を中心に展開していくのだが、同じ長屋に暮らすご近所の人々、物売りや警官などの通行人、縁日に集うテキ屋、遠く海に浮かぶ帆掛船などの風景をあちこちに配して、奥行きのある世界観を作り上げている。日常の生活感を描くことで映画の世界を充実したものにする、市川監督ならではの映画作りと言えるだろう。

 しかし僕はこの映画のこうした手法が、物語の足を引っ張っているように思えてならない。人間描写もドラマもやけに生々しくなってしまって、軽妙洒脱なコメディが、妙に重苦しくなっているように思うのだ。もちろんこの物語に登場する人々は、誰もが血の通った生きた人間だ。しかしその動かし方という面において、この物語ではもっと全体を軽く、テンポよく、サラサラと流れるようにストーリーを運んでいかなければならない。さもないとヒロインのおりょうという人物が、ただ身持ちの悪い、だらしない女に見えてきてしまうし、彼女に惚れ込む男たちも、趣味の悪い馬鹿な男たちに見えてしまう。

 何しろこの映画の中心にあるのは、おりょうというヒロインの男性遍歴だ。有り体に言えば「セックス」のお話なのだ。それを生活感たっぷりに、ひたすらリアリズムで描かれれば、そんなものは生臭くて見るに耐えないシロモノになる。必要なのはルビッチやビリー・ワイルダーのような映画特有の話芸なんだけれど、あいにくと市川準の持ち味はその自然主義にあるため、生臭い女の話がそのまま生臭くなってしまうんだよなぁ。

2002年9月14日公開 シャンテ・シネ他・全国東宝洋画系
配給:東宝
(2002年|1時間55分|日本)

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