ディナーラッシュ

2002/09/16 シネスイッチ銀座
ニューヨークのイタリアン・レストランを舞台にした集団劇。
軽い仕上がりだが満足度は大きい。by K. Hattori

 ニューヨークのイタリアン・レストランを舞台にした、喧噪と愛と暴力と美味しい料理に満ちた一夜の物語。監督のボブ・ジラルディはCMのディレクターが本業で、映画は'87年に『ウォンテッド・ハイスクール/あぶない転校生』という作品を撮ったきりだ。それが今回はリック・ショーネシーとブライアン・カラタの脚本を得て、短い時間の中に数多くのドラマが凝縮した、ちょっとコミカルで、たっぷりのスリルがあって、要所で観客をホロリとさせる物語を作り上げている。映画の舞台になった「ジジーノ」というレストランはトライベッカにある実在の店で、監督のジラルディはオーナーのひとり。こうした映画ではたとえ「実在の店」がモデルでも、撮影用にスタジオのセットが作られるのが常。しかしこのレストランが営業していない時間を見計らいながら、空間的に制限の多い本物の店で撮影が行なったという。

 映画の中ではいくつかのエピソードが併走していく。昔ながらの伝統的で家庭的なイタリア料理を愛するオーナーのルイと、店の料理長として次々に新しい創作イタリア料理を考案し、店を流行最先端のスポットに作り替えてしまった息子ウードの対立。ルイは息子の料理が理解できず、伝統的なイタリア料理に精通した腕のいい副料理長ダンカンを可愛がる。ところが彼はギャンブル狂で、ノミ屋に莫大な借金を背負っている。そんな弱みにつけ込んで、店の経営権を横取りしようとするクイーンズのギャングたちも店にやってくる……。物語はこうした基本的なプロットの上に、ダンカンと恋人のウェイトレスのロマンス、店にやってくる画商とウェイトレスの話、売れっ子フードライターとウードの関係、さらにバーカウンター周辺のエピソードなどをからめながら、あっと驚くラストシーンに流れ込んでいく。

 全体にさらりとした軽い仕上がりの映画で、同じようにレストランの一夜をクライマックスにした『パリのレストラン』や『シェフとギャルソン,リストランテの夜』などが持っていたボリューム感は、この映画から感じられない。しかしこの軽さは薄っぺらということではなく、小さいながら種も仕掛けもあるなかなかの業師ぶりを見せてくれるのだ。大げさな道具立てと演出で観客を圧倒させるステージマジックではなく、カードやコインやハンカチなどの小さな道具を使って観客を楽しませるテーブルマジックのような世界が本作『ディナーラッシュ』だ。小さな映画だと思って油断していると、まんまと作り手の術中にはまって、最後の最後に「おっ!」と驚き、ニヤリと笑う段取り。

 レストランを舞台にした映画は得てして客に出す料理より、従業員たちが食べるまかない料理の美味しそうに見えるのだが、この映画では客のテーブルに出る料理もじつに美味しそうだ。監督は店のオーナーだから、「映画を観て本物が食べたくなれば店にいらっしゃい」ということなんだろうけどね。

(原題:Dinner Rush)

2002年9月14日公開 シネスイッチ銀座、関内アカデミー劇場
配給:シネマパリジャン
(2001年|1時間39分|アメリカ)

ホームページ:http://www.cinemaparisien.com/

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