木曜組曲

2002/09/11 シネカノン試写室
恩田陸の同名ミステリー小説を篠原哲雄監督が映画化。
出演者の豪華さに負けない映画の完成度。by K. Hattori

 文章からほとばしる強烈な美意識で、多くの読者をとりこにしてきた女流作家・重松時子。彼女が自分の書斎で謎めいた服毒死を迎えた時、同じ家の中には5人の女たちがいた。彼女の編集者であり同居人でもあった綾部えい子と、それぞれ物書きをしている4人の親戚たち。時子の異母妹だった川渕静子、いとこの塩谷絵里子、姪の林田尚美と杉本つかさ。 警察立ち会いのもと、金庫の中から時子自筆の分厚い遺書が発見され、事件は創作に行き詰まった作家の自殺として処理される。それから4年。残された女たちは毎年時子の命日に集うようになっていた。えい子の作る美味しい料理と、酒でほどよく酔った上での遠慮のないおしゃべり。だが今年は少し様子が違う。静子が思い詰めた表情で、「時子姉さんを殺したのはわたしだ」と意外な告白をはじめたのだ……。

 原作は恩田陸の同名ミステリー小説。これを大森寿美男が脚色し、篠原哲雄が監督している。女流作家の死という物語の発端から、映画はすぐさま4年後に飛ぶ。ここからさまざまな謎を織り交ぜ解き明かしながら、4年前の出来事を回想し、事件の真相に迫っていくという構成だ。登場人物は4年目の命日に集まった女たち5人。そして冒頭と回想シーンに登場する重松時子本人。刑事や花屋の配達などワンシーンのみに登場する人物を除いてしまえば、物語に登場するのはこの6人の女性に限定され、物語の舞台も鎌倉にある作家の自宅兼仕事場に限定されてしまう。こうした制限は時として映画の表現そのものを制約し、表現の幅を狭めて映画を貧しくしかねないのだが、この映画はそこをうまくクリアして、小さな時間と空間の中に大きな物語を凝縮している。

 まず素晴らしいのは、登場する女優たち。作家を演じた浅丘ルリ子。彼女に影のように寄り添う編集者役の加藤登紀子。若い姪たちを演じた富田靖子と西田尚美。ベテランの原田美枝子。そして物語のキーパーソンであり狂言回しでもある鈴木京香。こうした女優たちの個性が映画の中でぶつかり合い、非常に緊張感のある芝居の応酬を見せてくれる。

 だがここで女優の芝居ばかりがあまり出しゃばった印象を与えないのは、カメラワークやカット割り、人物の出し入れ、回想シーンを挿入するタイミングなどが、見事なまでに映画になっていたからだと思う。室内劇で芝居を見せる映画の場合、映画の後から「これを同じキャストで舞台劇にしたらさぞ面白かろう」と思うことがあるのだが、この『木曜組曲』に関していえば、少なくとも僕は「舞台版が観たい」とは思わなかった。舞台にしても面白い物語ではあるだろう。だがそこでは、この映画の持つ色彩感が伝わってこないと思う。この色彩感を生み出すのは、テーブルの上に次々運ばれてくる料理であり、女優たちの表情を大きく画面に映し出すクローズアップであり、フィルム編集が生み出すテンポとリズムなのではないだろうか。

2002年10月公開予定 シネ・ラ・セット
配給:シネカノン 宣伝:JMP
(2001年|1時間53分|日本)

ホームページ:http://www.cqn.co.jp/

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:木曜組曲
原作:木曜組曲
エンディング曲:good-bye
(roller coaster「COME CLOSER」収録)

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