群青の夜の羽毛布

2002/09/11 GAGA試写室
山本文緒の小説を本上まなみ主演で磯村一路監督が映画化。
序盤が少しもたつくが、中盤以降はすごくいい。by K. Hattori

 直木賞作家・山本文緒の同名小説を、『がんばっていきまっしょい』の磯村一路監督が映画化。主演は本上まなみと玉木宏。共演には藤真理子、野波真帆、小日向文世など、存在感のある俳優を揃えている。物語の舞台は、東京近郊のとある町。近くにある大学に通う鉄男は、バイト先のスーパーにしばしばやってくる年上の女性に想いを寄せていたが、ある日貧血で倒れた彼女を助けたことで親しく付き合うようになる。彼女の名はさとる。物静かで大人しそうな彼女だが、初めてのデートでいきなりホテルに誘うなど、その行動は予想外なところがある。やがて鉄男は彼女の生活の裏にある、どす黒い家庭生活の闇をのぞき込む。家の中を厳格に統率しようとする母親の影響力の下で、助けを求めてもがき苦しむさとる。鉄男は何とか彼女を助けようとするのだが……。

 映画は導入部がだいぶぎくしゃくしているが、登場人物たちの性格が飲み込めた中盤以降はすっかりドラマに引き込まれてしまった。導入部がもたつく原因は、そもそも鉄男がさとるに恋をしているという描写にあまり説得力がないこと。本上まなみが演じるヒロインのさとるは、登場した時から病人のような青白く無表情な顔をして、まるで幽霊のようにスーパーの内部を歩き回る。なぜこんなに不健康そうな女に鉄男が惚れてしまうのか、その理由がよくわからない。まぁ確かに不健康そうな女にある種のエロティシズムを感じる面が、男性の中にはあるかもしれない。けれどこの映画の本上まなみは、病的な女のエロティシズムを感じさせる以前に、単なる病人にしか見えないのだ。

 物語が進んでいくと、さとるという女性の心が本当に病んでいるということがわかってくる。病んでいるのは彼女だけでなく、彼女の暮らす家そのものがひどく病んでいるのだ。こうした物語の構成を考えると、やはり映画導入部の彼女は「病気」ではなく、どこかしら「病的な匂い」を持つ女性に踏みとどまっていてほしかった。最初から貧血で失神するというエピソードがあるのだから、登場してしばらくはニュートラルな存在でいい。鉄男が彼女に接近するにつれて、彼女の健康な女らしさや救いを求める健全さと、彼女の心に巣くっている家庭の毒のアンバランスは自然に見えてくると思うのだ。ひょっとすると、映画導入部の脚本にはもう少し工夫が必要だったのかもしれない。

 家庭に留まり続けなければと考える自分と、家庭から飛び出したい、逃げ出したいと考えるヒロインが、生木を引き裂くように分裂していく中盤以降はなかなか見応えがある。鉄男とベッドを共にしながら、その愛撫を「汚い!」と拒絶してしまうエピソードなど、彼女の中にある矛盾した感情が見えてくる場面だ。彼女に鉄男の二の腕を掴むしぐさを繰り返させるのも、なかなか効果的な演出だ。腕を掴むという行為の意味が、その都度違うのがいい。

2002年10月5日公開予定 新宿東映パラス2、シネマ・メディアージュ
配給・宣伝:ギャガ・コミュニケーションズKシネマグループ
宣伝協力・問い合せ:オムロ
(2001年|1時間51分|日本)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/gunjyou-night/

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:群青の夜の羽毛布
主題歌CD:茨の海(鬼束ちひろ「This Armor」収録)
原作:群青の夜の羽毛布(山本文緒)
関連DVD:磯村一路監督
関連リンク:本上まなみ

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