猫の恩返し

2002/09/05 日比谷映画
スタジオジブリ育ちの新鋭・森田宏幸監督のデビュー作。
ジブリが脱宮崎高畑化していく挑戦なのだが……。by K. Hattori

 国民的な大ヒットとなった『千と千尋の神隠し』に続く、スタジオジブリ製作の長編アニメーション映画。企画は宮崎駿でプロデューサーは鈴木敏夫。監督はこれが劇場長編アニメデビュー作だという森田宏幸。ジブリが宮崎駿と高畑勲以外の監督作を作った例は、過去に『耳をすませば』の近藤喜文と、テレビアニメ「海が聞こえる」の望月智充のケースのみだから、きわめて例外的な事態なのだ。だが今回の映画はたまたま飛び出した例外ではなく、今後のスタジオジブリの方向性を模索する中から生まれた重要な布石なのだ。

 もともとジブリは宮崎高畑両人の監督作を作ることを目的に設立されたアニメスタジオだが、スタジオの規模が大きくなり、最新の設備を開発導入し、優秀なアニメーターが数多く参加してきた結果、世界有数の技術水準を持ったアニメーション製作会社へと成長した。こうなると、宮崎高畑だけのためにスタジオを占有化させることもできない。スタジオの資産をさらに発展継承していくために、宮崎高畑とは違う才能に作品作りを委ねていくことを視野に入れなければならなくなる。これは『耳をすませば』の時も同じことが考えられていたと思うのだが、残念なことに近藤監督は若くして亡くなり、ジブリの未来を背負っていくことはかなわなかった。その後『もののけ姫』や『山田くん』や『千と千尋』を経たジブリは、再度真剣に未来のジブリについて模索し始めている。そこから生まれたのが、今回の『猫の恩返し』だろう。ちなみに併映作『ギブリーズepisode2』の百瀬義行監督も、今回がデビュー作の新人だ。

 だが本当にこうした「新人育成路線」や「非宮崎高畑路線」が定着するかどうかは、さらに次の作品を見てみないと判断できない面もある。ジブリは『デジモンアドベンチャー』の細田守監督を招いて『ハウルの動く城』を製作すると発表したが、その後なんだか内部でいろいろあったらしく、細田監督はこの映画から手を引いたとの噂がある。(東宝HPのラインナップ情報では、監督名が細田守のままになっているけれど……。)もしこの噂が本当だとすると(本当なんだろうなぁ)、ジブリの行く手は袋小路じゃないのかなぁ。

 今回の作品を見て気づいたのは、宮崎作品の描く家庭像が「両親と子供がひとりかふたり」という世の“標準家庭像”とは少しずれているという事実だ。本作に登場するのは母子家庭。前作『千と千尋の神隠し』では主人公の少女が両親と離ればなれになってしまうし、その前の『もののけ姫』に至ってはサンが孤児、アシタカは一族からの追放者。他の作品を見ても、孤児や父子家庭という設定が非常に多い。なぜ宮崎アニメに孤児や片親が多いのかという分析は、今後の宮崎駿研究の大きなテーマになるかもしれない。(もっとも主人公が孤児というのは、少年少女向け読み物の定番ではあるんだけどね。例えば『ハリポタ』も同じです。)

2002年7月20日公開予定 日比谷映画他・全国東宝洋画系
配給:東宝
(2002年|1時間15分|日本)

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