シャーロット・グレイ

2002/08/26 UIP試写室
第二次大戦下のフランスを舞台にしたシリアスな女性スパイ映画。
主演はオスカー女優の ケイト・ブランシェット。by K. Hattori

 ケイト・ブランシェット主演のサスペンス映画。第二次大戦中のフランスはパリを含めた北半分をナチスに占領され、南半分はナチスに協力するビシー政権によって統治されていた。イギリス軍はこの地域で諜報活動を行なうため、フランス語に堪能な若い女性を募集。これに応じたのが、若いパイロットを恋人に持つシャーロット・グレイだった。恋人が軍で働くなら、自分も軍で働きたい。恋人がドイツと戦うなら、自分もドイツと戦いたい。彼がフランス上空で戦うなら、私ももちろんフランスに行く……。そんな恋の情熱が、シャーロットの危険な任務を支えている。だが現地に入った彼女が見たのは、事前に聞かされ想像していたものを遙かに上回る危険と困難の連続だった。最初に接触した連絡員は、シャーロットの目の前で捕らえられ殺されてしまう。目の前で銃が撃たれ、さっきまで共に話していた仲間たちが射殺される。そんな中、シャーロットには信じたくない、悲しい知らせが届けられることになる。

 原作は欧米でベストセラーになったというセバスチャン・フォークスの同名小説。これを『Queen Victoria 至上の愛』のジェレミー・ブロックが脚色し、『若草物語』『オスカーとルシンダ』のジリアン・アームストロングが監督している。物語は波瀾万丈だ。運命の出会いがある。燃えるような恋がある。戦争がある。裏切りがある。そして暴力に負けぬ気高い人間の魂がある。恋愛というきわめてパーソナルな出発点から、戦争や政治や民族が経てきた歴史の悲劇のような大きさにまで、ぐんぐん物語を広げていくダイナミズムがある。こうした物語の伸張にぴったりと寄り添って行くヒロインを演じるには、確かに演技力のある女優を出演させなければならなかったに違いない。だがそれがケイト・ブランシェットでよかったのかというと、僕にはどうも疑問が残る。

 ヒロインが危険の中に身を投じられたのは、恋の情熱に浮かされて向こう見ずになっていたからだろう。「恋人のためなら何でもできる」という気持ちが、シャルロット・グレイを勇敢にさせているのだ。それが映画前半で明確に打ち出されていれば、彼女が恋人と二度と再会できないのだと知った時の絶望感や、適地で孤立無援になってしまった恐怖がもっと伝わってきたと思う。ところがこの映画では、ケイト・ブランシェットが恋という熱病に取りつかれた女性には見えてこない。恋は人を盲目にする。恋は人を愚か者にする。だがこの映画の中のシャーロット・グレイは、常に聡明で我を忘れることがない。

 彼女が恋人との再会を優先して仲間を危険にさらす場面では、彼女がなぜそんなバカをやるのか僕にはわからなくなってしまう。もちろんそれは恋する者の愚かさゆえなのだが、映画の中の彼女はとてもそんなに重大な恋をしているようには見えない。それがこの映画にとって最大の欠点だと思う。

(原題:CHARLOTTE GRAY)

2002年11月公開予定 シャンテシネ
配給:UIP
(2002年|2時間1分|ドイツ、イギリス、オーストラリア)

ホームページ:http://www.uipjapan.com/charlotte/

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原作:シャーロット・グレイ(セバスチャン・フォークス)
原作洋書:Charlotte Gray (Sebastian Faulks)
関連DVD:ジリアン・アームストロング監督
関連DVD:ケイト・ブランシェット

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