echoes
[エコーズ]

2002/08/21 映画美学校第2試写室
ニューヨークで暮らす若い女性が主人公のインディーズ映画。
プロデュース、編集、監督、脚本は船橋淳。by K. Hattori

 ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアルアーツ映画学部で映画製作を学んだ船橋敦監督が、初めて撮った長編映画。1974年生まれと言うから、まだまだ若い監督だ。これが映画キャメラマンとしての初仕事という写真家のエリック・ヴァン・デン・ブルーを撮影監督に迎え、スチル写真のように美しいモノクロームの映像を作り出している。屋外シーンは光線が出たとこ勝負になってしまう部分もあるようだが、室内シーンはグレーの階調がきれいにつながった滑らかでしっとりとした質感の映像に仕上がっている。ベッドの上でヒロインがタバコを吸うオープニングの映像など、そのままスチル写真で通用するくらいの力強さを持っている。このシーンが強い印象を残したことで、映画のラストにある同じシチュエーションの反復(タイトルになっているechoには反復という意味がある)に観客の意識が向けられることになる。

 男の部屋で目覚めてタバコを一服し、男が寝ている間に財布から金をかすめ取って部屋を出ていく若い女。これがこの映画の主人公レスリーだ。彼女は夜ごとに出会う男たちとかりそめの関係を持ち、財布やバッグから金を盗みながら暮らしている。自転車で街を疾走する彼女に、知り合いは多くても特定の恋人や親友はいない。人間関係が希薄な大都会を漂流するのが、レスリーの今のところの生き方なのだ。ある夜バーで女性客のバッグを盗んだ彼女は、翌朝その中身を物色中に1枚の写真を見つける。若い夫婦と小さな女の子ふたりのありふれた家族写真。だがそれは、レスリーにとって見覚えのあるものだった。

 ヒロインの行動を終始追いかけるカメラだが、映画の中には説明的な台詞や説明的な映像がまったくない。レスリーが写真を見つけるシーンや電話をかけるシーンも、それがどんな意味を持っているのか、映画を観ていてもその時はわからない。一体彼女は何にうろたえているのか? 彼女は何を見つけたのか? そうした疑問は、物語が進行していく中で少しずつ解けていく仕掛けだ。

 パーティで偶然隣り合わせになった見知らぬ女が、じつは自分の姉だったかもしれないという事実。映画の中盤でヒロインと母親の確執や過去を明らかにし、映画終盤では彼女がニューヨークに戻って姉を探し始めるシーンが続く。だがこの映画は「ヒロインが生き別れの姉を探す話」ではない。彼女の姉探しはあまりにも手がかりの少ない雲を掴むような話だし、姉を探してどうするという意味もよくわからない。それよりも主人公が写真の発見によって、自分の知らなかった自分自身の過去を見出すことの方が重要だろう。彼女はそれまでの生活の中で、自分自身の中に何かしら空虚な部分があることを自覚している。その空虚さを埋めるのが、「生き別れの姉の記憶」なのかもしれない。彼女は1枚の写真によって、自分と周囲の関係性を一から見直し始めるのだ。

2002年9月14日公開予定 ユーロスペース(レイト)
配給:スローラーナー
(2000年|1時間12分|日本、アメリカ)

ホームページ:http://www.eurospace.co.jp/

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