金融破滅ニッポン
桃源郷の人々

2002/08/04 サンプルビデオ
「ナニワ金融道」の青木雄二と異才・三池崇史が手を組んだ金融ドラマ。
青木雄二が自ら出演しているシーンもあるよ。by K. Hattori

 「ナニワ金融道」の作者として知られる青木雄二の小説「桃源郷の人々」を、三池崇史監督が映画化したコメディ調の金融サスペンスドラマ。タイトルの『桃源郷』とは、河川敷にできたホームレスたちの集落のこと。他人を蹴落とすような競争はなく、必要以上にあくせく働くこともない生活の場。それぞれが必要に応じて働き、生きるために必要なものをメンバー全員で分配する。共産主義者が夢想する太古の原始共産制社会を、文字通り実現している場所だ。こうした社会のあり方は、いまだにマルクス主義を信奉する青木雄二ならではの理想郷かもしれない。

 映画の主人公はこのテント村で「村長さん」と呼ばれている哀川翔と、ある晩ふらりとやって来てそのまま村に居着いてしまった、佐野史郎演じるインテリ風の男(後に「助役さん」というあだ名が付く)。だが実質的な主人公は、大手スーパーの倒産で不渡り手形を掴まされて連鎖倒産に追い込まれた、徳井優演じる零細印刷所の経営者だろう。無責任な取引先のために、自殺寸前にまで追い込まれたこの印刷屋は、テント村の村長と助役の助けを借りて、一発逆転の大ばくちに打って出る。

 法律や金融システムを逆手に取った、違法すれすれの、あるいは一部犯罪に片足を突っ込んだ金融ゲーム。似たようなコンセプトの映画なら、『難波金融伝・ミナミの帝王』があるし『借王〈シャッキング〉』がある。『スティング』などにも通じるコンゲームの面白さと、実在の金融システムや社会問題を組み合わせた話には、いつだって庶民的な人気があるのだ。既存の金融サスペンスの多くが金融システムに精通して図太い神経を持ち合わせた者をヒーローとして描いているのに対し、本作『桃源郷の人々』はシステムに虐げられている弱者を主人公にしている点がユニークだ。一度は自殺未遂や一家離散という苦杯を舐めさせられた主人公(印刷屋)は、謎の村長や助役の助けを借りて、自分を苦しめた張本人たちに手痛いしっぺ返しを食らわせる。

 主人公も含めて、この映画の主役たちはお金持ちになりたいわけではない。法の網の目をすり抜けて濡れ手に粟の大金を手に入れることだってもちろんできるのだろうが、そんな金を手に入れたって意味がない。金は生活に必要なだけあればいい。金が金を生み出す「マネーゲーム」に彼らは興味がないのだ。マネーゲームに登場する数千万とか数億という単位のお金は、ゲーム参加者が右から左に動かす「記号」に過ぎない。でもこの映画に登場するお金は記号ではない。真面目な男がこつこつ何十年も働いて得た、正真正銘の「お金」だ。

 「金が入ったらどうするんだ?」「みんなでラーメンでも食べましょか」。きれい事に見えるけれど、こうした「生活者にとってのお金のリアリティ」が、青木雄二を原作とするこの映画の特徴であり魅力なのだと思う。

2002年8月3日公開 千日前国際シネマ
2002年9月7日公開 新宿ジョイシネマ
配給:大映
(2002年|1時間45分|日本)

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原作:桃源郷の人々(青木雄二)
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