千年女優

2002/07/31 メディアボックス試写室
映画黄金時代を生きたひとりの女優が最後まで追い求めたものとは?
『パーフェクトブルー』のスタッフが作った新作アニメ。by K. Hattori

 5年前に製作されたアニメ映画『パーフェクトブルー』で注目された今敏監督の最新作は、戦中戦後を日本映画界のトップスターとして駆け抜けたひとりの女優の生涯を描いた異色ドラマ。30年前に突然映画界を去り、世捨て人のように鎌倉で隠遁生活に入った往年の大女優・藤原千代子。70歳を超えた彼女にインタビューするため、テレビプロダクションの社長がカメラマンと共に彼女のもとを訪れる。社長から手渡された1本の古びた鍵。その鍵にまつわる、千代子の思い出話。生い立ちから女優デビュー、大女優への道、結婚、そして引退。謎めいた女優の生涯が、少しずつ明らかにされていく……。

 『パーフェクトブルー』はアニメの世界だけでなく、実写も含めた「日本映画界」にある種の衝撃を与えた作品だと思うが、同時に「ここまでやるなら実写でもいいんじゃないの?」と思わせる物語でもあった。だがこの『千年女優』は物語こそ「日本映画の黄金時代」に取材しながら、実写で映像化不可能な一線を、微妙に踏み越えたファンタジードラマになっている。この映画を実写で映画化しようとすれば、ヒロインの生涯を数人の女優で演じ分けなければならない。セーラー服の似合う少女時代、若さにあふれた娘盛り、そして女盛りの30代から40代、引退した70代の現在。だがこうした演じ分けをしてしまうと、時代から時代をシームレスに移動し、現実と映画の中の虚構が自由自在に行き来するこの映画の魅力が、女優の交代という変化によって分断されてしまうのだ。これに比べれば、映画のシーンを再現するのに膨大な費用がかかるということなど、大した問題ではないように思う。

 映画はひとりの女性の心の旅を追うドラマになっているのだが、そのテーマを形作る物語自体はきわめてシンプルかつストレート。作品に起伏やうねりを生み出しているのは、劇中でヒロインの回想として語られる数々の映画作品だろう。もちろんどれも架空の日本映画なのだが、戦時中の昭和10年代から高度経済成長期の昭和40年代にかけて作られた、日本映画黄金期の作品がそこで数多く引用されている。例えば黒澤明の『蜘蛛巣城』が、稲垣浩の『無法松の一生』が、円谷英二の特撮映画が、そっくりそのままアニメで再現されているのはちょっと異様ですらある。本来まったく作品の持ち味もタッチも違う映画群が、ヒロインの思い出を通してまったく違和感なしに隣接しつながり合う。

 しかしこの映画の欠点は、こうした「引用」があまりにもナマっぽいことだう。もちろんこれはパロディでもパクリでもなく、映画黄金期の日本映画にするオマージュであることはわかるのだが、なまじ引用元を知っていると、オリジナルと引用先の微妙な差異が気になってしまう。

 本作は今敏監督の原案となっているが、物語の下敷きになっているのは星野之宣の短編SFマンガ「月夢」だと思うぞ……。

2002年9月14日公開予定 渋谷東急3他・全国洋画系
配給:クロックワークス
宣伝:クロックワークス、ビー・ウイング
(2001年|1時間27分|日本)

ホームページ:http://www.1000nen.net/

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関連DVD:PERFECT BLUE
主題歌収録CD:賢者のプロペラ(平沢進)
原作?:妖女伝説(星野之宣)「月夢」収録
関連書籍:KON’S TONE―「千年女優」への道(今敏)

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