白夜

2002/07/15 松竹試写室
ドストエフスキーの小説を1957年にヴィスコンティが映画化。
愛の対象を奪われた男女のラブストーリー。by K. Hattori

 ドストエフスキーの同名小説を、ルキノ・ヴィスコンティ監督がマルチェロ・マストロヤンニ主演で映画化した'57年の伊仏合作映画。共演はマリア・シェルとジャン・マレー。物語の舞台は現代('57年当時)のイタリアに移してある。初冬のある夜に物語は始まる。仕事の都合で運河のある小さな町に引っ越してきた主人公マリオは、運河にかかる小さな橋の上で泣いている若い娘と出会う。彼女の名はナタリア。マリオは一目で彼女のことが好きになるが、彼女から身の上話を聞かされて愕然とする。じつは彼女の家は祖母と下宿屋を経営しており、今から1年と少し前、そこにハンサムな外国人の男がやってきた。ナタリアは彼を愛するようになり、彼もまた彼女の愛に応えてくれた。だが間もなく彼は町を離れることになり、1年後の再会と結婚を約束して町を立ち去ったのだという。だが1年たっても、恋人は約束の場所に現れなかった。マリオはナタリアから恋人に渡してくれと手紙を託されるのだが、彼女と別れると手紙を引き裂いて運河に捨ててしまう。そして翌日、手紙が恋人に渡ったと信じているナタリアは、恋人と再会できる喜びで大はしゃぎするのだが……。

 場所も時間も登場人物も限定された、舞台劇風の脚本と演出。映画に登場する町は、スタジオの中にすべて作られたものだという。物語を進行させていく登場人物は、マリオとナタリアのふたりだけ。ジャン・マレーが演じるナタリアの恋人は、正体不明で何を考えているのかもわからないミスターX状態。映画を構成しているのは、何とかしてナタリアの心を我がものにしたいと願うマリオの恋心と、再会を約しながらも現れない恋人を待ち続けるナタリアの不安定な気持ちだ。ナタリアはマリオに対しては恋人との再会を確信しているようなことを言う。だがマリオはそんなことは馬鹿げており、ナタリアの恋人は決して彼女のもとに戻ってこないだろうと考える。じつはナタリア自身も、自分の望みが叶わぬものであることに気づいているのだ。恋人は現れない。だからこそ彼女は橋の上で泣いている。心変わりした恋人を再び自分に振り向かせようと、精一杯の言葉を費やして手紙をしたためる。恋人はもはや遠くに立ち去って戻ってこない。ナタリアの愛は宙ぶらりんなまま、行くあてもなく凍てついた町をさまよわなければならない。

 対象が失われていたとき、恋愛はより純粋さを増していく。ナタリアの愛は恋人の失踪によって純化され、マリオの愛はナタリアが別の男を愛しているが故に純度を高めていくように思える。マリオとナタリアが一瞬とはいえ共に未来を夢見る関係になったとき、僕はこのふたりの未来に何の面白さも感じることはできなかった。ナタリアが恋人と再会した後も、ふたりの関係がハッピーなものになるとはとても思えない。対象を奪われた恋の狂おしいく燃えさかる情熱に比べれば、現実の「恋愛関係」は退屈なのだ。

(原題:LE NOTTI BIANCHE)

2002年秋公開予定 シネ・リーブル池袋
配給:ケイブルホーグ
(1957年|1時間42分|イタリア、フランス)

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原作:白夜(ドストエフスキー)
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