エンジェル・アイズ

2002/07/08 丸の内プラゼール
殺伐とした大都会で出会う男と女の恋のドラマ。
ルイス・マンドーキ監督の持ち味が生きている。by K. Hattori

 シカゴで警官として働くシャロンは、自分の仕事に誇りを持ちながらも、殺伐とした生活に心が冷え切っていくのを感じている。家族と離れ、恋人もいないひとり暮らし。彼女は数年前に起きたある事件が原因で、家族との関係がしっくり行かなくなっている。それは彼女の孤独を生み出す心に刺さったトゲとなっていた。ある日彼女は犯人を追跡中、キャッチと名乗る奇妙な男に命を救われる。何の仕事をしているのか、どこに住んでいるのかもよくわからない不思議な男。だがシャロンは彼の深く澄んだ瞳に安らぎを感じるのだ。やがてふたりは深く愛し合うようになる。だがキャッチもまた、その心に深い傷を負った男だった。シャロンは彼の過去を知って愕然とするのだった……。

 『ぼくの美しい人だから』や『男が女を愛するとき』『メッセージ・イン・ア・ボトル』などの作品で知られるルイス・マンドーキ監督が、ジェニファー・ロペスとジム・カヴィーゼル主演で描くラブ・ストーリー。この監督は日常の些事を細かく描き込んだ生活描写の緻密さが特徴で、それがしばしば物語の自由な発展を妨げてしまうほどだった。ストーリーが走り始めようとするのを、微細な生活描写の厚みが押しとどめてしまうのだ。しかし今回の映画では、逆にそんなマンドーキ監督の持ち味がプラスになっている。

 例えばヒロインが危険と隣り合わせの警官という仕事をしているというエピソードも、それがスリルとサスペンスという非日常的な出来事としては描かれず、彼女自身にとっては逃れようにも逃れられない「日常」なのだという感じが伝わってくる。主人公たちがおずおずと接近して愛し合うようになるくだりも、ことさらドラマチックに描かれることなく、互いの心の中で少しずつ相手がかけがえのない人間になっていく様子が伝わってくるようだ。同じ話を別の監督が演出すれば、もっと起伏の激しいロマンチック・ラブストーリーになったことだろう。だがマンドーキ監督の演出は淡々としたペースで、主人公ふたりの隠された心の動きを追っていくことに専念する。

 人間の心の中は外からは見えない。だが見えないものを見えるようにするのが映画だ。シャロンとキャッチは、それぞれが自分の「過去」にとらわれて生きている。その人の過去は、その人の生活スタイルに大きな影を落とす。生活のディテールを丁寧に描写するマンドーキ監督の作劇術が、この映画のプラスになっていると感じるのはまさにこうした点からだった。シャロンやその家族、キャッチと彼がしばしば訪れる老女の家から感じられる生活臭や空気感のようなものが、そこで暮らす人々が心に負っている傷を、映画を観る観客に感じさせてくれる。生活ディテールに圧迫されて物語が動き出さないというこの監督の欠点が、「過去の傷」によって身動きが取れなくなっているこの映画の主人公たちにの心情描写とうまく結びついている。

(原題:ANGEL EYES)

2002年10月公開予定 丸の内ピカデリー1他・全国松竹東急系
配給:松竹
(2001年|1時間43分|アメリカ)

ホームページ:http://www.angel-eyes.jp/

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