ファイティング ラブ

2002/07/02 TCC試写室
トニー・レオンとサミー・チェン主演のロマンティック・コメディ。
主演スターの魅力が映画の魅力の9割だ。by K. Hattori

 ウォン・カーウァイ作品の常連俳優トニー・レオンと、『Needing You』『痩身男女』のサミー・チェン主演のロマンティック・コメディ。出会ったその日にいきなり大げんかをした男女が、その後いろいろとあって恋に落ちるという定番のストーリーを、このジャンルでは定評のあるジョー・マ監督が手堅くまとめている。恋人のいる男が自分のタイプとはまったく違う女性と出会い、いつしか彼女に惹かれていくという筋立ては使い古されたものだし、映画に登場するエピソードもキャラクターも類型的で新しさはほとんど感じられない。ユニークなのは男が青年実業家でもアーティストでもなく、牛もつ麺屋の経営者ということ。その恋人も古風で退屈なお嬢様タイプではなく、バリバリ仕事をして自己主張も激しいアイドル芸能人ということになっている。

 正直言ってしまえばこの映画の脚本と演出は三流か、せいぜい二流の下の方だと思う。主人公ふたりのキャラクターはなかなか面白いが、三角関係の一方の頂点にいるミンディのキャラが弱すぎるから、恋の鞘当てがまったく緊張感のないものになる。デボラの父親はなかなか面白い親父さんとして描かれているけれど、トンザイの家族は人数ばかり多くて何を考えているのかよくわからない。ジョー・リーが演じる悪人顔の友人、デボラの会社の同僚たちや気の弱い弁護士なども、気の利いた脚本家ならもう少し物語の中でちゃんと動かしてくれるだろうに。おそらく脚本を作り始める段階で、こうした多彩な人物をちりばめておけばいろいろなギャグを盛り込んだり、エピソードをからめたりできると目論んだのでしょう。でもその目論見は目論見だけで終っていて、周辺人物たちがまったく物語の本体にからんでこない。つまり物語そのものには、ふくらみもなければ奥行きもないのです。

 ところがそれでも、この映画は面白いし観たあとの満足感も味わえる。それは主人公ふたりのキャラクターが、他の欠点すべてを上回るほど魅力的だからだろう。特にデボラのキャラクターはかなり念入りに人物が描き込まれており、物語の導入部で彼女がトンザイの家に居着いてしまうまでのエピソードの組み立てはよく考えられたものだと思う。人物描写にはかなりぎくしゃくした部分もあるのだが、演じているサミー・チェンのスターの魅力がそれを埋め合わせして、あまりデタラメな人物にも見えない。
 
 こうした「スターの力」がフルに発揮されているのは、女性ふたりにモテモテの主人公トンザイだ。彼は優しいだけで優柔不断なつまらない男だと思う。牛モツ麺の店は繁盛してお金持ちだけれど、彼の人間的な魅力がどこにあるのかを語るエピソードは不足している。デボラはともかくとして、ミンディはトンザイのどこに惹かれているわけ? 脚本上のそんな疑問は、トンザイをトニー・レオンが演じることでうやむやになってしまうのだ。

(原題:同居蜜友 Fighting for Love)

2002年8月公開予定 渋谷シネパレス
配給:キングレコード 宣伝協力:フリーマン
(2001年|1時間42分|香港)

ホームページ:http://www.kingrecords.co.jp/cinema/rec01/index.html

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