太陽の雫

2002/07/02 メディアボックス試写室
ハンガリー近現代史の中で翻弄されるユダヤ人一家の運命を描く。
レイフ・ファインズが祖父・父・子の3代を熱演。by K. Hattori

 19世紀末から20世紀末までの激動するハンガリー近現代史を背景に、時代に翻弄され苦難を舐め続けさせられたユダヤ人一家を描いた大河ドラマ。監督は『メフィスト』『ミーティング・ヴィーナス』イシュトヴァーン・サボー。物語はひとりのユダヤ人の回想で曾祖父からの一家の歴史が物語られていく構成だが、祖父・父も含めて3世代に渡る主人公をレイフ・ファインズが演じている。(この俳優の出世作は『シンドラーのリスト』の冷酷な収容所長役だったから、ユダヤ人を虐殺する側から虐殺される側に逆転したわけだ。)カナダとハンガリーの合作映画だが、出演しているのは、ローズマリー・ハリス、レイチェル・ワイズ、ジェニファー・エール、モーリー・パーカー、デボラ・カーラ・アンガー、ジェームス・フレイン、ジョン・ネヴィル、ウィリアム・ハートなど英語圏の俳優ばかり。ハンガリーの監督が母国の歴史を映画化しようとしても、この規模の対策になると英語圏に輸出することを前提にする必要があるということか。確かにこの映画も主演がレイフ・ファインズでなければ、日本に輸入されたかどうかはちょっと疑問だしね……。

 ヨーロッパのユダヤ人たちがナチスのホロコーストで数百万人も殺されたことはよく知られているが、それはドイツやドイツに併合されたポーランドだけに起きたことではなく、同盟国のイタリアや、占領地となった周辺地域にも及んでいた。ポーランドのワルシャワゲットーの悲劇やアウシュビッツという名前があまりにも有名なので、こうした周辺地域の悲劇は見過ごされがちだ。ハンガリーではナチス占領下で、60万人のユダヤ人が殺されたという。

 だがホロコーストはヨーロッパを覆っていた「ユダヤ人の差別と迫害」の、ひとつのクライマックスでしかない。この映画にはナチス台頭前からハンガリー国内にあった反ユダヤ主義の問題が取り上げられている。主人公のひとりイグナツは、法律家として出世するためにユダヤ風の名前を捨てなければならなかった。その子アダムはフェンシング選手として将校クラブにスカウトされる条件として、カトリックへの改宗を強制された。だがこうしてキリスト教社会におもねり、ひたすら社会に同化して行くことを選択してもなお、ユダヤ系住民に対する差別と迫害は続く。ナチスからユダヤ人を解放したソ連は、スターリン時代に「反シオニズム」の名で大規模なユダヤ人迫害を行なっている。

 映画はほぼ100年に渡るハンガリーの歴史の中で、変わっていくものと変わらないものを対比させている。変わらないものの筆頭は、主人公を演じるレイフ・ファインズだ。彼が演じる3人の主人公は性格も生き方もまったく異なるが、それをひとりの俳優に演じさせることで、彼らが本質的には同じ人間であることを示している。その証拠に彼らは女性と逢い引きするとき、いつも同じカフェを利用するのだ。

(原題:SUNSHINE)

2002年秋公開予定 銀座テアトルシネマ
配給:新日本映画社 宣伝:楽舎
(1999年|3時間|カナダ、ハンガリー)

ホームページ:http://www.espace-sarou.co.jp/sunshine/sunshine.intro.html

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