ぼくのパパは、きみのパパ

2002/06/21 パシフィコ横浜
昔の恋人に「じつはあなたの子供を産んでいた」と言われた男は……。
『ニノの空』の監督主演コンビによる異色ホームドラマ。by K. Hattori

 地域のカルチャーセンターに勤めているトムは、妻シルヴィーや3人の子供たちの生活に退屈しはじめていた。家庭も仕事も、なんだかひどく面倒くさい。いっそ浮気でもと思うが、これはと思う女性に声をかける度胸も元気も、今の彼にはなくなっている。ところがそんな彼のもとに、結婚前に同棲していた元恋人ヴィルジニーから「会いたい」という電話がかかってくる。「いよいよ浮気のチャンス到来か!」とワクワクするトムだったが、彼女の口から飛び出したのは思ってもみない新事実だった。じつは昔別れたとき彼女は妊娠しており、そのまま彼に知らせることなく子供を産んだのだという。今年8歳になる娘とふたりで暮らしてきたヴィルジニーだったが、今は勤め口も住むところも失い、裁判所から親権も奪われて、娘は施設に預けられてしまったというのだ。このままでは子供があまりにも不憫すぎる。自分の生活が立ちゆくようになるまで、娘をあなたの家で預かってはくれまいか……。トムはこの突然の話に面食らうが、結局は顔も知らない自分の娘を自分の手元に引き取ることに決める。

 監督・脚本は『ニノの空』のマニュエル・ポワリエ。ドキュメンタリーの仕事で施設の子供たちを取材していたとき、「もしこの子が僕の子供だったら?」と考えたのが映画の出発点だったという。主演はポワリエ監督の『ニノの空』に主演し、最近は『ポルノグラフィックな関係』や『ハリー、見知らぬ友人』にも主演しているセルジ・ロペス。妻シルヴィーをマリリン・カントが演じ、ヴィルジニーを『ビヨンド・サイレンス』『点子ちゃんとアントン』のシルヴィー・テスチュが演じている。

 自分の知らないところで、自分の昔の恋人が自分の子供を産み育てているかもしれない。これは男性の身にだけ起こりうる(かもしれない)大事件。映画の中でトムが妻に言うように、女性の場合は「知らない間に子供が産まれていた」ということはあり得ない。こうした事件を「まぁそういうこともあるでしょう」とありのままに受け止めるのが、フランス映画らしさかもしれない。ハリウッド映画や日本映画だと、男性側が道義的な責任を問われて離婚問題に発展しそうな話だと思うけれど、フランスではそうはならない。

 子供が3人もいるくせに、いつまでもふわふわと無責任で自由気ままな生き方をしたいと願う主人公。だが彼は顔も見たことのない娘の出現をきっかけにして、責任ある生き方の中にある喜びを見出していく。人間は誰かのために生きることにも、喜びを感じられるものなのだ。

 脇役のキャラクターもよく考えられていて、登場する家族が、それぞれの悩みを抱えている様子が微笑ましい。生活指導員の若い男もいい味を出している。彼が思春期の女の子に「人は何度でも人を愛する権利がある」と語る台詞が、この映画に登場する子供たちを祝福しているようにも思えた。

(原題:Les femmes...ou les enfants d'abord...)

第10回フランス映画祭横浜2002
配給:未定
(2002年|2時間00分|フランス)

ホームページ:http://www.unifrance.jp/yokohama/

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