アフガン・アルファベット

2002/06/07 映画美学校第1試写室
マフマルバフ監督によるアフガン難民キャンプのドキュメンタリー。
子供たちの中にアフガニスタンの未来が見える。by K. Hattori

 『カンダハール』のモフセン・マフマルバフ監督が、9・11テロ直後にイラン国内のアフガン難民キャンプを取材したドキュメンタリー映画。キャンプ内に急ごしらえで作られた学校の中で、小さな子供たちが読み書きを覚えようとしている。子供たちが最初に覚える言葉は「AB(アーベ)」で、これは「水」という意味だそうだ。映画の中で何度も連呼される「アーベ!」「アーベ!」という言葉が、この映画のタイトル『アフガン・アルファベット』につながっていく。この言葉はアルファベットの最初の2文字であり、子供たちにとって教育の第一歩であり、生命の基本である水を表した言葉であり、アフガニスタンの未来を象徴している言葉だ。

 ビデオで撮影されたわずか46分の作品で、映画前半は教室で学ぶ子供たちの姿や、身分証がないため正規の生徒としては認められない難民の子供たちの姿が描かれている。だがこの映画のクライマックスは、映画後半にある女子教室での一事件だろう。イスラム圏では女性が頭にベールを被っているが、タリバン支配下のアフガニスタンでは、ブルカと呼ばれる民族衣裳をすっぽりと頭からかぶり、まったく外に顔を出さなかった。教室の中でも難民の少女のひとりが、頭からすっぽりとブルカを被って脱ごうとしない。女性教師が授業中だけでもなんとかそれを脱がせようとするのだが、少女は頑なにそれを拒む。「オマル師(タリバンの指導者)は奥さんを箱の中に入れて、必要なときだけ箱を開けて匂いをかぐわ。アフガンの女性は家族以外には絶対に顔を見せないのよ」という少女の言い分にサジを投げた教師は、「ブルカを脱がないなら教室の外に出ていなさい」と生徒を教室から追い出してしまう。この少女を心配した友だちが、教室の外でぽつんと立ちつくしているブルカの少女に近づき、何とかして彼女にブルカを脱いでもらいたいと説得する場面が、この映画最大の山場になっている。

 アフガン女性のブルカはタリバンによる女性差別や抑圧の象徴とされており、マフマルバフ監督も前作『カンダハール』でブルカをそのように描いていたと思う。『カンダハール』撮影後に出演したイラン人女性たちが不要になったブルカを欲しがっても、監督は決してそれを渡さなかったという。抑圧の象徴であるブルカが、イラン国内にまで新しいファッションとして入り込むことを憂えたのだ。ブルカを脱ぐことは、古いアフガンから新しく生まれ変わったアフガンへの変化を象徴する。教室の外で行われる少女同士のやり取りは、古いアフガンに固執する人々を、周囲がどのように説得すればいいかというシミュレーションでもある。「ブルカを脱ぐのは罪よ」と言う少女に、「もしそれが罪なら、私が一緒にお祈りをして神様に許してもらう」と言うクラスメイトの少女。やがてブルカの少女は、自分がブルカを脱ぎたくない本当の理由を語り始める……。結局誰かを説得するには、理詰めや強制では意味がない。「一緒に祈ってあげる」という姿勢が、ひとりの少女を変えるのです。

(原題:AFGHAN ALPHABET)

2002年8月公開予定 新宿武蔵野館
配給:オフィスサンマルサン 宣伝・問い合せ:ムヴィオラ
(2000年|46分|イラン)

ホームページ:http://www.musashino-k.co.jp/

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関連DVD:モフセン・マフマルバフ監督
関連書籍:アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない
     恥辱のあまり崩れ落ちたのだ(モフセン・マフマルバフ)

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