阿弥陀堂だより

2002/06/03 ル・テアトル銀座
東京から信州に移り住んだ熟年夫婦が自然の中で癒される。
『雨あがる』の小泉堯史監督最新作。by K. Hattori

 黒澤明の遺稿シナリオを映画化した『雨あがる』で、日本アカデミー賞など数々の映画賞を受賞した小泉堯史監督の新作。前作『雨あがる』は「長年に渡って黒澤監督の助監督をしていた新人が、黒澤組のベテランスタッフたちの力を借りて、世界のクロサワの遺稿シナリオを映画化する」というコンセプトだったから、映画全体どこをとっても黒澤映画の空気を“再現”しようとするものになっていたように思う。要するに黒澤映画の文体をまねたイミテーションになってしまった。しかし今回の映画は芥川賞作家・南木佳士の同名小説を、小泉監督が自ら脚色したオリジナルの企画。撮影の上田正治、美術の村木与四郎、録音の紅谷愃一、衣装アドバイザーの黒澤和子など、旧黒澤組のスタッフも数多く参加しているが、これは小泉監督が助監督時代から親しんできた旧知のスタッフを招いたということだろう。僕は『雨あがる』が嫌いではない。いかにも黒澤監督の幻の遺作を、そのまま映画化したという感じがして好感が持てた。でも今回の映画はそうした黒澤色を離れて、小泉堯史監督本人の映画として好感が持てる作品になっている。

 物語の舞台は信州の山里・谷中村。ある春の日、この村に東京から一組の夫婦が移り住んでくる。夫の上田孝夫はこの村出身の売れない小説家。妻の美智子は大病院に勤務する医師だったが、激務によるストレスからパニック障害という心の病にかかり、その治療も兼ねてこの村にやってくることになったのだ。豊かな自然の残る風景。そこには地域に根を下ろして暮らすさまざまな人が暮らしている。村の阿弥陀堂を守る96歳のおうめばあさん。おうめのもとに通って、村の広報誌に「阿弥陀堂だより」というコラムを執筆している若い娘・小百合。孝夫の恩師である幸田先生は末期の胃ガンを患いながら、妻とふたりで最後の日々を有意義に送ろうとしている。

 主人公の孝夫を演じるのは『雨あがる』にも主演していた寺尾聰。井川比佐志や吉岡秀隆なども、『雨あがる』からの連投になる。しかしこの映画で一番光っているのは、阿弥陀堂のおうめばあさんを演じた北林谷栄と、美智子を演じた樋口可南子だと思う。樋口可南子はこの映画が、『女地獄油地獄』以来9年ぶりの映画出演だいう。心のバランスを崩して生きる力を失ってしまったヒロインが、大きな自然のふところで再び生きる力を取り戻していく様子を、確かな存在感で演じている。相変わらずスタイルもよく美しい。この映画には香川京子が先生の奥さん役で出演しているけれど、やっぱり女優さんは美しくなければいけない。こうした美しい女優さんが出てくるから、信州の自然が透明感のある清々しいものに見えてくる。これが泥臭くなるとダメなのです。いわば畑のゴボウよりきんぴらの方が美味いのと同じ理屈。

 四季折々の風景を映画に取り込むため、1年がかりで少しずつ撮影したという、今の日本映画としては贅沢な作りの作品。その成果がちゃんと映画に生きている。時折挿入される「阿弥陀堂だより」の言葉もいい!

2002年秋公開予定 日比谷みゆき座他・全国東宝洋画系
配給:東宝、アスミックエース

(2002年|2時間8分|日本)

ホームページ:http://www.amidado.com/

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原作:阿弥陀堂だより(南木佳士)
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