模倣犯

2002/05/24 よみうりホール
サイコサスペンスでもなければ、ミステリーでもない変な映画。
中居正広は好演しているけれど、映画自体はダメ。by K. Hattori

 宮部みゆきの同名ミステリー小説を、森田芳光監督が映画化した映画なのだが、はたしてこの映画はサイコサスペンスなのか、あるいは社会批判なのか、もしくはコメディなのか……。僕は原作を読んでいないし、おそらくは今後も読むことがないだろう。だから「原作に比べて云々」という議論をするつもりは毛頭ない。僕がこの映画に感じる不満は、純粋にこの「映画」に対する不満だ。監督の森田芳光は、いったいこの映画のどこをセールスポイントにしたかったのだろうか? 僕にはそれがさっぱりわからなかった。いったいこれは何なのか?

 ほとんど行きずりと思える連続女性誘拐殺人事件。公園に置き去りにされた、被害者のバッグと片腕。あるいは道路脇に投げ捨てられている、被害者の遺体。こうした話を『セブン』や『カル』のような猟奇殺人ショーとして描くことも当然可能だ。特殊メイクや高度な造形技術を駆使して、惨殺された死体をリアルに再現してやれば、観客は思わずギョッとするだろう。だがこの映画は「連続猟奇殺人」をテーマにしているにもかかわらず、ただの一度も画面に死体を登場させないのだ。保冷バッグから突き出した遺体の指先すら画面に出さない。埋められた死体の腕や足先が、にょっきりと土中からむき出しになっている場面もない。転落した車の中に、黒こげの死体があるわけでもない。この映画は徹底して、画面の中から直接的な死の描写を排除する。その結果、物語の中の「死」は、言葉の上での記号でしかなくなる。生きている人間が暴力によって亡き者にされるという具体性は映画から遠ざかり、殺人も死体も犯罪も、すべては抽象的な出来事として描かれるようになる。

 これは『39 刑法第三十九条』や『黒い家』で直接的な残酷描写をふんだんに盛り込んだ森田監督による、一種の実験なのだろう。死体を描くことなく、殺人シーンを見せることなく、それらを象徴したりするシーンを挿入することもなく、殺人をテーマにしたミステリーを映画化するという実験。でもこの実験は、僕にはどうしても失敗しているとしか思えない。

 映画前半は被害者側の視点から物語が語られ、映画後半は犯人たちの視点から同じ時間が語られるという構成。映画の最後に被害者と犯人が対決し、ラストは明日への希望を小さな命に託して終る。これは黒澤明の『羅生門』と同じなんだよなぁ……。でもこの映画の終盤は、物語としてまったく辻褄が合っていないように思える。こんなものは、ミステリーとしてはまったく破綻しているのだ。そもそも犯人ピースの最後は、ありゃナンじゃい? 同じ宮部みゆき原作の『クロスファイア』と、話がクロスオーバーしてしまったんでしょうか?

 ピースを演じた中居正広はわりとよかったと思う。爬虫類系のヌメヌメしてひんやりした感じが出ている。でも山崎努の豆腐屋はいいとしても、寺脇康文は畳屋なんぞに決して見えないし、藤井隆の蕎麦屋もキャスティング的に無理がないか? ハンパな映画だよなぁ……。

2002年6月8日公開予定 日劇2他・全国東宝系
配給:東宝

(上映時間:2時間2分)

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原作:模倣犯(宮部みゆき)(上) ・(下)
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