ローラーボール

2002/05/13 渋東シネタワー4
ジョン・マクティアナン監督が'75年のSF映画のリメイク。
話が単純化されスケールもダウンしている。by K. Hattori

 '75年にジェームズ・カーン主演で映画化された近未来SF『ローラーボール』を、若手俳優クリス・クライン主演でジョン・マクティアナン監督がリメイクしたもの。ところがこの映画、オリジナル版とはまったく様相が違う。オリジナルは高度に発達した資本主義社会が結果として独裁者なき共産主義体制を作り、そこで主人公が自由を求めてもがくというディストピア・ジャンルの正統派SFだ。主人公は選手としての盛りを過ぎたスター選手だが、彼は会社から下された引退勧告を無視することで、会社上層部に反逆するのだ。ところが今回のリメイク版は、時代が現代になっている。映画の中からはディストピアSFの要素が消え、物語も「引退を拒否する選手の話」から、「引退を望んでもそれが許されない選手の話」になってしまった。

 ホッケー選手として将来を嘱望されながら、素行の悪さから選手としての道を自ら閉ざしてしまったジョナサンは、友人リドリーの誘いもあってローラーボールの世界へ身を投じる。ロシアマフィアの大物ペトロビッチがすべてを牛耳るローラーボールは、高視聴率で世界中に試合が放送されているスポーツイベント。だがそこでは視聴率を稼ぐために、試合中の選手の負傷さえもが意図的に演出されていたのだ。ローラーボールはスポーツではなく、死と暴力がウリの見せ物なのだ。選手たちは契約上いつでも自由に引退できるはずだが、実際はそれを許されない。彼らは独裁者ペトロビッチの手に握られたチェスの駒のようなものだ。選手は古代ローマの剣奴(グラディエーター)に等しい。奴隷の主人であるペトロビッチは反逆者を許さなかった。彼は脱走に失敗したジョナサンを抹殺するため、強引に試合のルールを変更して「最後の試合」を演出しようとするのだが……。

 オリジナル版の『ローラーボール』を今観ると、試合シーンの演出がスローモーで迫力がない。しかし今回のリメイク版は、演出が非常にスピーディになっている。この点だけはリメイク版の勝ち。しかし物語自体は、奴隷的な身分に甘んじていた人間たちが独裁者に反逆するという古典的なもの。ジョナサンの反逆が独裁者の帝国を覆し、彼は世界を救った英雄になるのだ。もっともその「世界」とは、ペトロビッチが牛耳るスポーツ興行とそれに連なる各種の商圏を指しているだけだから、世界の成り立ち自体に異議を唱えたオリジナル版の主人公の反逆とは、そもそもスケールがまったく違う。

 試合中の事故が仕組まれたものだと知った主人公たちが、逃げ出そうとするくだりにあまり説得力が感じられなかった。主人公は最初からローラーボールを「見せ物」だと思っていたのだから、事故が仕込み立ったと知っても、なぜそれほど驚く必要があるのか。この脱走に至るエピソードに説得力と緊迫感がないことが、脱走失敗以降のエピソードに盛り上がりが欠けている原因だろう。窮鼠猫を咬むと言う。十分にネズミを追い込まなければ、猫に噛みつく行為も必然性がないぞ。

(原題:ROLLERBALL)

2002年5月11日公開 日劇3他・全国東宝洋画系
配給:東宝東和

(上映時間:1時間37分)

ホームページ:http://rollerball.eigafan.com/

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:ローラーボール
サントラCD:ROLLERBALL
原作:ローラーボール
関連DVD:ローラーボール('75)
関連DVD:ジョン・マクティアナン
関連DVD:クリス・クライン
関連DVD:ジャン・レノ

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ