燃ゆる月

2002/04/12 シネカノン試写室
『シュリ』のスタッフが作ったスケールの大きな時代劇浪漫。
作り手の意欲ほどには映画が面白くなっていない。by K. Hattori

 日本でも大ヒットした韓国映画『シュリ』のスタッフが作った、時代劇ロマンス映画。企画・製作は『シュリ』の監督カン・ジェギュで、これは彼のデビュー作『銀杏のベッド』の続編に相当する物語なのだという。(『銀杏のベッド』は日本公開予定あり。ただし僕はまだこの映画を未見。)『燃ゆる月』は韓国映画界が放つ鳴り物入りの超大作として完成前から話題になり、韓国では公開2日だけで記録的な興行成績を上げたという。ただしその勢いは長続きせず、あっという間に失速してしまったといういわく付きの映画でもあるのだが……。

 物語は太古の昔にさかのぼる。神山(シンサン)の神秘的な力に守られて暮らすメ族とファサン族。だがメ族は世界を支配したいという野望にとらえられ、ファサン族に戦いを挑む。ファサン族は神山の力で守られ、逆にメ族は呪いを受けて荒野へと追放された。それから数百年。メ族の末裔たちは部族再興のため、ファサン族と神山の力に最後の戦いを挑もうとしていた。メ族とファサン族の血を引く子供を生贄にすることで天剣を作れば、神山の呪いを解くことが出来る。メ族の女族長スはファサン族の族長ハンを誘惑して子供を作り、その子を生贄にしようと画策。だが生まれた娘ピは父親の手によって救い出され、父娘はメ族の追っ手を逃れて10数年の年月が流れた。娘が15歳になった年、ハンは故郷であるファサン族の部落に戻って、村人たちにピを預ける。それから数年。ピは美しい娘へと成長し、村の若者タンと相思相愛の仲になる。だが平和な村にも、メ族の手が伸びる。メ族は天剣の入手を諦めていなかったのだ。

 500年に渡る部族同士の争いに、男女の悲恋をからめたスケールの大きなドラマを作ろうとしている意図はわかる。だがそれが、どこでどう間違えたのか永遠に空回りを続けているように見えるのだ。天剣を手に入れたメ族がファサン族に復讐したとして、それがいったいどうしたというのか。500年の怨み云々と言ったところで、しょせんはメ族とファサン族という、総勢数十人だか百数十人だかの人々にしか関係のない、きわめて小さな世界の物語ではないのか。

 映画には『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』など、宮崎アニメの影響がうかがえる。でも『ナウシカ』や『もののけ』は小さな世界を舞台にしていても、その外側に広がる大きな世界を主人公たちが背負っていた。映画に描かれていない部分にも人々が暮らし、それぞれの利害が交錯していることが誰にでも理解できた。でも『燃ゆる月』に、そうした世界観の広がりはない。

 登場する役者たちは熱演しているし、特に主人公となる若者たちの若い頃のエピソードは初々しく好感が持てる。しかし美術やコスチュームのセンスが、なんとなく東映変身ヒーローものみたいで安っぽい。天剣が出てくる巨大な時計のような装置も、いかにも発泡スチロールかプラスチックで出来ているようで重厚感がまるでない。登場した天剣も、なんだかヘンテコでした。

(英題:The Legend of Gingko)

2002年6月公開予定 スバル座他・全国ロードショー
配給:シネカノン、アミューズピクチャーズ

(上映時間:1時間58分)

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