新・仁義の墓場

2002/04/05 徳間ホール
伝説の狂犬ヤクザ石川力夫の生涯を現代に翻案して再映画化。
岸谷五朗の凶悪ぶりが強烈。有森也実もがんばった。by K. Hattori

 昭和50年に渡哲也主演で製作された東映実録ヤクザ映画の傑作『仁義の墓場』を、三池崇史監督が岸谷五朗主演でリメイク。モデルになった石川力夫というヤクザは、終戦直後の10年間に活躍した実在のヤクザ。東映版はそれを時代背景も忠実に映画化していたが、今回のリメイク版は時代を現代に移した翻案バージョン。主人公の名前も石松陸夫に変えられている。脚本は『荒ぶる魂たち』でも三池監督と組んでいる武知鎮典。石川力夫が生きた戦中戦後の動乱期を、日本中が好景気に踊ったバブル経済期に移し替えたアイデアはなかなか面白い。世の中が激動していく中で、ヤクザ渡世の筋を通そうとする古風な親分と兄弟分に囲まれながら、激情型の石松陸夫はヤクザとしてのルールさえ踏み外してひたすら暴走していく。岸谷五朗は人のいい兄ちゃんのような役が今までは多かったが、この映画では短めのパンチパーマに剃り込み入れて、眉も半分落としたすごい人相。渡哲也演じる石川力夫が冷たい狂気だとすれば、岸谷五朗の石松陸夫は燃えさかる熱い狂気を抱えた男に見える。

 三池崇史監督の演出はじつに力強く、有無を言わさぬ勢いで主人公の粗暴な行動をぐいぐいと押し進めていく。少し古風なヤクザの面影を残す、沢田総長役の山城新吾がいい。若い頃は『仁義なき戦い』に明け暮れていたが、今はすっかりおとなしくなった初老のヤクザ。だが彼は自分の命を助けてくれた石松の中に、かつて自分の血を騒がせた荒っぽい男たちの姿をだぶらせる。じつは山城新吾は、東映版『仁義の墓場』にも出演しているのだ。このキャスティングは、オリジナル版『仁義の墓場』に対するオマージュかもしれない。この映画の中にはオリジナル版からの引用とおぼしきシーンが他にもいくつかある。渡哲也が骨壺から妻の遺骨を取り出してポリポリかじるシーンは、岸谷五朗がニンジンをかじるシーンにオーバーラップする(人骨とニンジンではずいぶんな違いだけれど)。主人公が投身自殺するラストシーンも、大量の血糊が飛び散るという演出が共通している。ただし三池版は単に深作演出をなぞるだけではない。深作版がバケツで血糊をぶちまけていたとすれば、三池版はバスダブで血糊をぶちまけるような演出になる。これには深作版を知っている人も思わずギョッとするだろう。

 スタッフもキャストも『荒ぶる魂たち』と重なり合う部分が多いのだが、三池監督が自ら鉄砲玉役で出演するというのも共通点のひとつ。登場して、暴れ回って、殺されるというパターンだが、この鉄砲玉の登場をきっかけにして物語が大きく動いていくという重要な役どころだ。自分が死んでもヤクザとしての筋を通そうとする『荒ぶる魂たち』の主人公と、自分が死ぬまで無軌道に突っ走る『新・仁義の墓場』はまるで正反対。しかし両者は「そう生きることしかできない男たち」を描いている点で、同じように悲しい映画なのだ。東映版と比べてどちらの映画が上か下かと論じるのは無意味。これは『荒ぶる魂たち』と比較すべき映画かもしれない。

2002年6月22日公開予定 新宿ジョイシネマ
配給:大映

(上映時間:2時間11分)

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原作:仁義の墓場(藤田五郎)
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